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葛飾区T邸-12(どのようにデザインをしたのか_内部空間について-3)

言うまでもなく、Tさんが経験してきた‘暮らし’や‘空間’を単純に再現しても、今のTさんにとって良い家にはなりません。Tさんの経験を拠り所として、共感できるところを新たなデザインに昇華します。そうして‘今までよりも気持ちよく住める家’の実現を図るわけです。

Tさんにとって‘暗さ’は良い家の条件です。内部空間をデザインするにあたっては、どのような‘暗さ’かを想い描く事が大切になります。Tさんの語り口は「陰を感じる‘仄暗い’空間」といったものでした。とても感覚的ですが、そのように陰に重きを置くよりも「光を感じる‘薄明るい’空間」として‘暗さ’をデザインするほうが、より居心地が良くなるように私には思えました。やわらかい光がうっすらと内部空間を浮かび上がらせる様は‘静かな空間’に似つかわしくもあります。それは日本建築における光のあり方の一つであるようにも思います。私は、具体的なデザインを通して、Tさんにその旨をお伝えしました。

リビング・ダイニングの漆喰壁にひろがる光

リビング・ダイニングの漆喰壁に射す光

「印象的に光を感じられる内部空間とするには、自然光を反射する‘まとまった大きさの壁’があると良い」と思うことがあります。そして、その壁にどうやって自然光を反射させるのかによって、印象が決まるようにも思います。
全ての部屋において、その空間の広がりに見合った‘まとまった大きさの壁’を設けるように心がけました。そこに自然光を反射させています。特にリビング・ダイニングには、しっかりと‘まとまった大きさの壁’を設けました。この壁に自然光を入れる開口部として、玄関の‘障子’を当てています。‘障子’越しの自然光が漆喰壁に反射するさまは、どこか粛然とした様子です。

リビング・ダイニングに開放感や明るさが欲しい時には、この‘障子’を開けます。玄関の‘格子戸’と‘障子’との間は80cmほどになります。‘格子戸’から道路までは1mほどです。‘障子’を引ききって開け放つと、リビング・ダイニングが行き成り道路とつながる印象となるように思いました。道路に人通りが無いとは言え、これではあまり雰囲気が良くありません。この問題を解決するために‘障子’は‘猫間障子’にしました。‘猫間障子’の固定された上半分が、道路からの視線を遮ります。開閉する下半分は、外への視線と外からの光を調節します。

こういった視線や光の調節の仕方もまた、日本建築らしさのある一面のように思います。

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葛飾区 T 邸-6(どのようなプランニングをしたのか)

具体的なプランニングですが、最も特徴的なのは‘玄関’の在り方かもしれません。T邸の‘玄関’は、雰囲気や使い勝手を‘縁側’のようにしました。「リビングに‘縁側’を設けて、そこから掃出し窓をくぐって家に出入りする」イメージです。
Tさん‘たっての希望’である‘木製の引違い格子戸’を設けられる位置は、家の防火に関連する法(延焼の恐れのある部分)によって、道路側のほぼ中央に決まります。狭小地ながら駐車スペースの要望もあり、採光も道路側を当てにする事になります。これらの前提条件で、効率よくまとまった大きさのリビング・ダイニングをつくるには、‘玄関’を簡素化するのが有効だろうと考えました。この簡素化を‘縁側’のイメージで実現しようという着想です。‘玄関’とリビング・ダイニングの間は‘縁側’らしく‘障子’で仕切ります。
家への出入りを楽にするため、出来るだけ‘玄関’の床の段差を無くしました。車椅子でも楽に家へ出入りできるようになっています。

和室の戸襖を開けたところ

和室の戸襖を閉めたところ

狭くても良いので畳のある床が欲しいという御要望もあったので、小上がりのある3畳の和室を設けました。普段は三枚の戸襖を開けて(戸袋に引き込みます)、リビング・ダイニングと一体感を持った使い方をします。三枚の戸襖を閉める事で、寝室としても使える想定です。これにより一階だけで生活を完結させる事ができます。この和室は小さいがゆえに、畳に寝る良さとベッドに寝る良さを併せ持った使い勝手になると考えています。

カウンターと出窓越しに見る緑

キッチンは’背が高いカウンター’と’エアコンを仕込んだ垂れ壁’でリビング・ダイニングとの間を仕切っています。Tさんにとって快適なキッチンとリビング・ダイニングとの距離感を考えて、このような仕切り方(開き方)にしました。壁付けのシステムキッチンを設置して、まわりにTさんの暮らし方に合った出窓やカウンターや収納を設けて、高密度な作業スペースにしています。ダイニングテーブルからは、カウンターとキッチンの出窓越しに隣地の緑が見えるようにしました。

多目的に転用できる納戸(ロフト有)

二階には多目的に転用できる納戸を設けました。お母様の部屋と息子さんの部屋の間に配置して、双方から使える納戸にしています。廊下からも入れるようにしているので、個室としても成立します。納戸の中を家具で仕切るなどする事で、さまざまな使い方が想定出来ます。息子さんが結婚して家族が増える可能性を考慮しての事です。

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葛飾区 T 邸-5(どのようにプランニングをするのか)

T邸は都市部の狭小地に建つ狭小住宅になります。70代のお母様と40代の息子さんが暮らす家です。ゆくゆくは息子さんが家を相続する予定ですが、お母様が暮らしやすくする事を優先するように求められていたように思います。

私は「今はもちろん、この先も暮らしやすい家にする事が大切だ」と考えています。先の事を考えるときに、身体の変化への配慮も必要ではないかと思います。人はだんだんと‘疲れやすくなったり’‘重いものを持てなくなったり’‘手や足が以前より上がらなくなったり’するものです。そんなふうに変わっていく身体にたいして、それほど負担がかからない暮らし方を考えるように心がけています。‘暮らしに無駄な動きが生じないようにする’‘維持管理に手間がかからないようにする’‘一階だけで生活が完結できるようにする’‘床に段差を無くす’‘建具を引戸にする’といった方針でプランニングします。「効率の良い合理的な家をつくる」とも言えます。特殊な方法を採用しているわけではなく、丁寧にプランニングしているという事になるかと思います。

引違い玄関前

特に狭小住宅では「‘小さくて’効率の良い合理的な家をつくる」となります。小さい家の方が、無駄に動く必要もなく、掃除もメンテナンスの範囲も狭くなり、楽に暮らせるという事になりそうです。しかしただ単に小さい家にすると「なんだか息苦しくて快適ではない」となりかねないので、お施主さんの暮らし方を見ながら工夫をします。その際には「住む人の手が行き届く範囲を見極める」「住む人が楽しくできる家の事を把握する」といったところがとても大切になってきます。庭があると、花を植えて楽しめる人もいれば草むしりが嫌になる人もいます。家族の顔が見えるキッチンだと、リラックスして家事を出来る人もいれば生活にメリハリが無くなる人もいます。

狭小地の場合は、敷地の形状もプランニングにとても大きく影響してきます。敷地条件に合わせながら、Tさんの暮らし方に相応しい工夫をしていきます。

階段室と和室の引戸を閉じたところ(奥のカウンター前が階段室引戸)

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