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世田谷区K邸リフォーム-13(住み手の個性_好きなものに囲まれる暮らし)

住み手の好みをデザインに反映するよう心がけています。言うまでもなく、住み手の家に対する熱量が大きいほど、より個性のあるデザインとなります。
暮らしはじめてしばらくすると、さらに住み手らしさが色濃くなるように思います。デザインした空間の質が変わっていくのを感じます。

絵画のあるリビング

完成して一年ほど経つと、暮らしぶりも落ち着いてきます。つくり手としては「余白のあるデザインにしよう」という心づもりもあったのですが、住み手は「余白を埋めて、より好みのデザインにしよう」という想いを持たれたようです。壁には絵画が掛かり、アンティーク家具やヨーロッパデザインの照明器具も増えています。好きなものに囲まれる暮らしです。より住み手らしさが感じられる家になったと思います。

絵画のある玄関ホール

福島

世田谷区K邸リフォーム-12(和と洋の橋渡し)

既存家屋の空間構成は、完成時である45年前の〈少し広めの家〉によく見受けられたように思います。一階は南向きの続き間を中心とした間取りです。その続き間の〈間口〉と〈奥行〉と〈天井高さ〉は、日本間の寸法となっています。他の部屋も同様ですが、尺を単位に、畳の大きさを基にして、部屋のあり方が決められています。畳や障子などが入っていない部屋であっても、どこか日本らしい空間に感じられるところがあります。既存家屋の空間の骨格が日本的であるという言い方も出来るかもしれません。
それ故に、間取りを変えずにリフォームをする場合、どこまでヨーロッパ風にしようとしても、空間から日本建築らしさが抜けきる事は無いように思います。新築であれば、例えばヨーロッパ風のモチーフが無くても、間取りや空間のプロポーションのとりかたによって、空間の骨格からヨーロッパらしさのある家に出来たかもしれません。

そういった事情もあって、住み手からのご要望にあった〈ヨーロッパ風のインテリアデザイン〉は、多くをインテリアコーディネートによって実現する事としました。ヨーロッパデザインのファブリックや家具や照明器具などを、印象的に用いています。内装仕上げとしては、既存の空間とバランスをとるために、ところどころにヨーロッパ風のモチーフをちりばめ、雰囲気を創るに留めました。もっともそれらしくデザインしたのは、リビング・ダイニングです。ここでは、日本的な空間の骨格にどう向き合うのかを、より問われた気がします。本格的に〈ヨーロッパ風のインテリアデザイン〉にしようとすると、既存の空間では広がりが足りないように感じます。寸法的には、天井の高さがあと600mm、部屋の奥行きがあと1000mmは欲しいところです。日本的な空間の骨格のままバランスをとるために、モチーフ(モールディングと三心アーチとウィリアム・モリスの壁紙)を抑え気味にもちいたデザインとしました。空間の広がりへの補足効果を考えて、壁も天井もシンプルな白い左官仕上げにしてもいます。

〈ヨーロッパ風のテイストを入れた日本の家を創る〉という姿勢で向き合ったデザインです。

福島

葛飾区T邸-15(住み手の個性_暮らしの情景)

竣工後三年半が経ち、あらためて内観写真を撮影する機会がありました。
言うまでもない事かもしれませんが、竣工時と今とでは様子が違います。今の方が ‘住み手の個性’ をより強く感じられるようです。

三年半後のダイニングとキッチン

Tさんの家への思い入れは、とても強いものでした。その想いに応えるべく、Tさんの好みと暮らし方を注意深くデザインに反映しています。結果として、竣工時には ‘個性’ を感じられる家になっていたと思います。私が意図したこともあり、内部空間には粛然とした雰囲気が漂っていました。
Tさんが暮らし始めると、より色濃く ‘住み手の個性’ が反映されていった印象です。以前からお持ちの使い慣れたものが、家の中に並びます。一階を見渡してみると、家具とペンダントライトと時計によって、具体的な暮らし方が浮かび上がって見えてくるようです。さらに食器やミシンや小物入れなどの場所が定まって、こと細やかにTさんらしい ‘暮らしの情景’ が描かれたようにも感じます。そうして、粛然とした雰囲気を残しつつも、親しみやすさを併せ持つ空間になっていったように思います。
改めてT邸に向き合ってみて ‘住み手の個性’ がデザインを仕上げるように感じました。

三年半後のリビング

福島

葛飾区T邸-14(日本建築らしさ)

Tさんが住みはじめてしばらくすると、娘さんの幼馴染の女性が遊びにいらしたそうです。彼女は「お蕎麦屋さんでもできそうね」と仰っていたとの事です。私には‘家の日本建築らしさ’と‘店舗の和風インテリア’では、デザインが異なって見えます。なんというか、店舗のインテリアにはある種のケレン味が求められるように感じます。しかし彼女には、その違いはさほど気にならなかったのだろうと思います。かつてTさんの暮らしにあった‘日本建築らしさ’は、彼女にとって馴染みのないものだろうと私は考えました。Tさんにそうお伝えすると「あの娘は小さい時からマンション暮らしだからねえ」と仰っていました。日本建築らしさを感じた経験が店舗の中にしかないのであれば、彼女の感想はもっともなものです。

多くの人にとって、かつての日本的な建築は既に日常にはないようにも思えます。ある人の‘日本建築らしさ‘ とは、舞台セットのように虚構の世界に存在するのかもしれません。あるいは、他国の人が想像を膨らませたそれと変わりがないのかもしれません。そういった感覚によるデザインもあって良いと思います。しかし私には「きちんとした ‘日本建築らしさ’ があるのではないか」という想いもまたあるわけです。

つくり手としては、かつて日本にあった家をしっかりと学び、その有り方に意味を見出し、そこに新たな解釈を加えて、今に相応しいきちんとした ‘日本建築らしさ‘ をデザインできるようにも思います。なかなか難しい事ではあるのでしょうが、あまり厳密に首尾一貫した論理性のようなものを求めずに、感性を拠り所として含みを持たせるのであれば、有効な手立てと言えるのではないでしょうか。

それでは、住み手にとって ‘日本建築らしさ’ とはどのような意味を持ち得るのでしょうか。 ‘日本建築らしさ’ を求める人には何らかの経験があり、それに伴うイメージに心惹かれていると見る事は出来そうです。そうであれば、住み手にとって意味のあるデザインとするには、つまるところそのイメージの中に意義を見いだすのが道理に思います。住み手のイメージが `きちんとしたもの’ であれ `ケレン味のあるもの’ であれ、つくり手が考えるきちんとした‘日本建築らしさ’ を軸に据えて取り組む事で、住み手にとって ‘日本建築らしさ’ はより意味を持つように思えるのです。

福島

葛飾区K邸-7(住み手の個性)

中庭や玄関を挟んで鏡像のように建つ二棟は、ほぼ同じ平面を持ちます。その違いは、昼の空間に設けた造り付けの棚や机のあり方です。面積が限られているからこそ、こういったところに母娘それぞれの暮らし方を反映する事になります。広い部屋であれば家が完成した後に気に入った家具を好きなように置けますが、限られた面積の部屋でそうはいきません。造り付けのものを上手く配置しないと物の行き場がなくなりがちで、気持ちよく使える空間にはならないこともあります。結果として完成時には既に、使う人の個性がある程度は見受けられる部屋になっています。

娘の昼の空間_キッチン側

暮らしはじめて暫くすると、それぞれの棟の内部は母娘の個性がより強く表れた空間になっていきます。習慣や好みの違いによって、使い方や置かれるものに違いが出てくるからだろうと思います。趣味のものなどは、特に部屋の様子に影響を与えている印象です。物の置き方によって、その暮らしぶりが見えてくるようです。

母の昼の空間_ピクチャーウィンドウ側

娘の昼の空間_ピクチャーウィンドウ側

全く同じ平面と仕様のキッチンでは、特に母娘の違いを感じます。好みの違いはもちろんですが、年齢差による体力等の違いも影響しているように思います。年を重ねると、高い所には物を置かなくなったり、日常で使うものはすぐ手の届くところに集めたり、そういった傾向はあるようです。
高齢になると、身の回りの事を全て一人でするのは大変なことだと思います。「メンテナンスや掃除などの手入れが楽になるように」心がけて設計しました。とは言え、いつかは簡単な手入れも苦痛になる時期が訪れるのかもしれません。その時に何を割り切って暮らすのかなども、人によって違うように思います。掃除の回数を減らす、いっそのこと何も手入れをしない、使わないようにする等々。そういった割り切りに選択肢のある家にしたいと考えたのですが、難しいと実感するばかりです。せめて少しでも長く自立した生活を送れる家にしたいと、いつも通りの配慮をする事になります。それほど動かずに生活をまとめられるコンパクトな暮らし方、段差を無くした動線、寝室近くにトイレ・洗面・浴室を配置、スイッチやレバーハンドルは低めに設置、等々の一般的な配慮です。
できるだけ長く自分らしく暮らしていただきたいと思っています。

娘の寝室_トイレ・浴室・洗面に隣接

福島

葛飾区T邸-13(どのようにデザインをしたのか_建具について)

‘ 格子戸 ’ ‘ 障子 ’ ‘ 戸襖 ’ といった建具が、この家の日本建築らしさの要となっているように思います。それらを伝統的なあり方そのままとするのではなく、今の暮らしを支えられる技術を織り込んだものにしようと考えました。あわせて ‘ 静かな空間 ’ に似つかわしいデザインと使い勝手にもしようと考えました。

格子戸

‘ 格子戸 ’ を、玄関の引違い戸として使っています。少し細めの格子を少し広めの間隔で組んで両面格子にしました。外から奥の障子と重ねて見ると、透明感がある軽い印象です。小振りな佇まいの家に似合うと思いました。リビング・ダイニングに採光をとる上でも、効果的なデザインだと考えています。技術的な工夫もしています。それなりの断熱性や気密性を持たせるために、ペアガラスを入れたり気密材を用いた納まりにしたりしています。重い建具となるため、高性能で高耐久の戸車とレールを注意深く選びました。滑らかな動きとするために、高い施工精度と緻密な施工管理も求められました。

猫間障子と戸襖

‘ 障子 ’ は、内部空間をぐっと日本建築らしくします。障子越しに広がるやわらかい光を、どのようにどこまで届かせるのかを加減して、粛然とした雰囲気をつくりだします。特に猫間障子は、そういった空間づくりに効果があると思います。
障子紙は、張替の手間を減らし耐久性をあげるために、和紙ではなく和紙付フィルムとしました。両面テープで貼るため、組子をあまり繊細なつくりにすると張替が難しくなります。とは言え、部材が大きい無骨なデザインは、さして似つかわしいとは思えません。お願いしている建具屋さんは見付7.5mmの組子を規格サイズとしているのですが、これであれば見た目にもバランス良く、コスト的にも無理がなく、張替にも対応できると考えました。敷居と鴨居は、オーソドックスな溝寸法を基本にデザインをして、すべりも触り心地も良い埋樫を入れました。

和室の戸襖

‘ 戸襖 ’ は、漆喰の内壁に近い印象にしようと考えました。合板フラッシュに和紙張り包みとして、シンプルな一枚板のようにデザインしています。
和室と個室の戸襖は、窓の遮光のために障子の部屋内側に建て込みました。Tさんからの「部屋に光が入らないように雨戸を設けたい」という御要望を受けて、工夫して戸襖を入れる方がより良いのではないかと思うに至ります。外部からも内部からも見栄えする上に、ハンドリングもメンテナンスも楽になります。敷居と鴨居は、障子に合わせた溝寸法としています。それなりに重いため、障子同様に埋樫を選び、さらにすべりを良くするために戸襖の摺り桟も共材としました。
リビング・ダイニングに面する片引き戸も戸襖としています。漆喰壁と一体の印象にするため、床から天井までのフルハイトにしました。

リビングダイニングの戸襖

福島

葛飾区K邸-6(相続への配慮)

東京23区内に土地を持っていると、それなりに相続の事を考えざるを得ないと言えます。敷地の所有者はお母様であり、その土地の法定相続人は娘さん二人です。この敷地の形状や接道状況を見ると、土地を二分割してそれぞれに相続するのが分かりやすくて無駄も無さそうです。家を建て替えるにあたって、相続への配慮がある〈家の形〉や〈構造〉や〈平面計画〉としたら、さらに無駄もわずらわしさも減ります。結果として、土地も家も二分割しやすい〈二棟に分けた二世帯住宅〉は有効だと考えました。相続後に家に少し手を加えるだけで、娘さんがそのまま一棟に住み続ける事もできます。もう一人の娘さんは、残りの一棟に住む事も出来ますし、相続分の土地を建物ごと売却する事も出来ます。土地も家もそれぞれが別の所有者になったとしても、この家に気持ち良く住み続けるために、中庭のようなテラスとスロープはとても効果的だと思います。例えば、スロープとテラスと玄関を二つに区画する壁を立てる事で、二棟の家の独立性を高くする等が考えられます。一棟を残して、もう一棟は解体する事も考えられます。分かりやすく相続の選択肢を増やす‘家のつくり方’もあると考えています。

スロープを境に土地と建物を分割しやすい

テラスを境に土地と建物を分割しやすい

福島

葛飾区K邸-5(周辺環境との関係)

敷地の東側に畑があります。その畑の周辺には木も茂っており、少しのどかな光景です。南側と北側には二階建ての建物が近接していて、西側は狭い道路を挟んで大きな倉庫です。東側の光景は、都会では贅沢に思えます。それに、東側から畑越しに射す朝日は気持ちが良さそうです。そこで東側の景色を活かした計画としました。明るさと開放感が欲しい昼の空間を敷地東側に配置して、そこにフィックスの東向きピクチャーウィンドウを設けています。キッチンからも昼の空間越しにピクチャーウィンドウを楽しめます。

ピクチャーウィンドウ

キッチンからの眺め

いつか畑が宅地になってしまう可能性に対しても、配慮が必要だと考えました。東側隣地に建物が建ってしまうと、昼の空間への採光条件が悪くなり、ピクチャーウィンドウからの景色や開放感も楽しめなくなります。そうなると、他にもピクチャーウィンドウと同等の役割を果たす窓が欲しくなります。都市に建つ家で採光と換気を確保するには、中庭を設けるのが有効です。母娘それぞれの棟の間隔が適切であれば、中庭的な空間をつくることが出来ます。そこに向けて大きめの窓を設置したら、東側に隣家が建っても窮屈な暮らしにはなりません。という事で、天井まで届く掃出し窓と障子を入れました。中庭にはウッドデッキを設けて、より快適さと利便性が高い空間にしています。

ウッドデッキの中庭

周辺から家がどのように見えるのかという点にも配慮をしました。のどかな光景には、控えめな印象の佇まいが相応しいように思います。地域にも馴染む抑え気味のデザインとなるように、よく見かける切妻屋根のシンプルな外観としました。

福島

葛飾区K邸-4(一人暮らしと家の大きさ)

一人暮らしの一軒家を限られた面積で建てるにあたって、どんなプランなら快適に暮らせるのかと考えます。できるだけ部屋を広くみせるのであれば、浴室に洗面もトイレも入れたワンルームマンションのような平面もあり得るのかもしれません。しかし、母娘お二人には相応しくないように思われます。ワンルームマンションの様では暮らしにメリハリがなくなり、気持ち良く過ごせないと考えました。

対面式キッチン

キッチンや浴室・洗面室・トイレ等のサニタリーは、それぞれ独立して設けるほうが快適そうです。水回りにはそれなりに面積を割く事になります。他の部屋については、昼の空間と夜の空間に分けるようにしました。そうする事で暮らしにメリハリが生まれると考えたからです。

サニタリー

設計に着手した際に、母娘それぞれの一人暮らしのお住まいを拝見させていただきました。お二人とも無駄な物は持たず、うまく整理整頓をしながら暮らしていらした印象です。そこで収納の面積を必要最低限に設定して、出来るだけ部屋の面積を確保する事にしました。
年を重ねて体の自由が利かなくなる事もあるかもしれないと考えて、睡眠や着替えのための夜の空間である寝室の面積確保を優先しました。4.5帖ほどは必要です。

娘の寝室

残りの面積5.5帖で昼の空間を成立させる事となります。この面積でリビングダイニングと呼べる部屋をつくるのは無理があります。多目的に使う個室のイメージで、昼の空間を成立させようと考えました。それまでの御二人の暮らしぶりを鑑みて、それぞれの昼の空間のあり方を模索します。お母様の家については、大きなテーブルを部屋の中心に据えて、窓辺に書斎コーナーのあるレイアウトにしました。娘さんの家については、壁に沿ってモノを並べて部屋の中心を空けるようにして、対面式キッチンに向かってダイニングコーナーのあるレイアウトにしました。

母の昼の空間

娘の昼の空間

福島

葛飾区K邸-3(母娘の距離)

この敷地に建っていた二階建ての古い一軒家で、お母様が一人暮らしをしていました。娘さんが同居を決めたのを機に、家を建て替える事となります。

まずは御二人に相応しい‘同居のあり方’を模索していきます。私が初めて打合せをさせて頂いた時には、既に母娘それぞれが独立して暮らす二世帯住宅のイメージを持っていらっしゃいました。二人とも一人暮らしに馴染みがあるし、自分の空間で好きに暮らすのが快適そうです。検討案は単身者用の共同住宅に近いイメージになっていきます。いくつかの案を比較しながら、それぞれの世帯の距離感を探ります。できるだけ広い家に住むのであれば、二階建て案が適していると考えられます。お母様の体力を考慮に入れると、二階建ての場合は娘さんが上階に住むのが良さそうです。とは言え、娘さんにとっても二階に上がる事はそれなりに大変ではあります。それに階ごとに世帯をわけると、母娘の距離が遠い印象もあります。母娘の年齢や単身で一世帯という条件を考えると、常にお互いの気配を感じられるようにしたいし、声が届くようにはしたいところです。そこで、平屋の二世帯住宅の可能性を探る事になりました。

二棟の家

敷地条件を考えると、一世帯当たりの面積に余裕はありません。おのずと単身世帯に最低限必要な面積を考えながらの設計となります。その上で二世帯が付かず離れずのプランを検討していきます。結果的に、それぞれの世帯を一軒家と見なした案に落ち着きました。二つの家がテラスやアプローチを挟んで独立する配置にして、それを共有玄関で繋ぐプランです。

テラスを挟んで二棟が並ぶ

アプローチ

共有玄関

福島