タグ別アーカイブ: 相続

葛飾区K邸-6(相続への配慮)

東京23区内に土地を持っていると、それなりに相続の事を考えざるを得ないと言えます。敷地の所有者はお母様であり、その土地の法定相続人は娘さん二人です。この敷地の形状や接道状況を見ると、土地を二分割してそれぞれに相続するのが分かりやすくて無駄も無さそうです。家を建て替えるにあたって、相続への配慮がある〈家の形〉や〈構造〉や〈平面計画〉としたら、さらに無駄もわずらわしさも減ります。結果として、土地も家も二分割しやすい〈二棟に分けた二世帯住宅〉は有効だと考えました。相続後に家に少し手を加えるだけで、娘さんがそのまま一棟に住み続ける事もできます。もう一人の娘さんは、残りの一棟に住む事も出来ますし、相続分の土地を建物ごと売却する事も出来ます。土地も家もそれぞれが別の所有者になったとしても、この家に気持ち良く住み続けるために、中庭のようなテラスとスロープはとても効果的だと思います。例えば、スロープとテラスと玄関を二つに区画する壁を立てる事で、二棟の家の独立性を高くする等が考えられます。一棟を残して、もう一棟は解体する事も考えられます。分かりやすく相続の選択肢を増やす‘家のつくり方’もあると考えています。

スロープを境に土地と建物を分割しやすい

テラスを境に土地と建物を分割しやすい

福島

葛飾区K邸-1(竣工)

葛飾区K邸が竣工しました。
狭小二世帯住宅です。敷地周辺には畑やお寺などの緑地が点在していて、のんびりとした雰囲気が少しだけ残っています。

周辺環境を活かそうとした点と、先々の介護や相続に配慮をした点が、この家のあり方を決めたのではないかと考えています。

正面

前面道路から敷地を見ると、切妻屋根の細長い平屋が二つ並んで建っています。控えめな印象の佇まいになったと思います。家づくりの打合せをはじめた頃に、お施主さんに慎ましやかな印象を受けました。敷地周辺を見まわして、主張が強めのデザインは似つかわしくないと感じもしました。そういった経緯もあり、この家には抑え気味のデザインが相応しいという考えに至ります。

それぞれの棟に、高齢のお母さんと娘さんの一人暮らし世帯が入ります。二棟の間に‘アプローチ’と‘二世帯共有玄関’と‘テラス’が挟まれるような配置です。

アプローチ

玄関

テラス

外部から内部に至るまで、バリアフリーとしています。玄関前に段差をつくらないために‘アプローチ’を全面的に‘スロープ’としたところは、この家の特徴の一つです。‘アプローチ’を登ると‘二世帯共有玄関’になります。家に入る前から、この玄関の‘ガラスの引き違い戸’越しに裏の緑地が見えます。隣接する緑地を風景として取り込んでいるところも、家の特徴の一つです。

キッチンやダイニングからは、窓越しにのんびりとした風景を眺められます。この窓は景色を絵のように切り取る‘ピクチャーウィンドウ’としてデザインしました。

ピクチャーウィンドウ

ダイニングの‘天井までとどく障子’を開けると、三方向を壁に囲まれながら一方向を緑地に開いた‘テラス’に出ます。テラスの床はウッドデッキです。椅子に腰かけて‘テラス’で過ごすのも気持ちが良いと思います。

ダイニング

この‘テラス’を挟んで、母娘はお互いの様子を知ることも出来ます。高齢者が住む二世帯住宅において、世帯同士がこういった距離感で暮らす良さもあると考えました。

テラスからの眺め

敷地を中央から二分するようにして、世帯ごとに棟を分けた計画です。このような構成とした背景の一つに、相続に対する配慮があります。お施主さんの一人であるお母さんには、二人の娘さんがいらっしゃいます。もう一人のお施主さんと、その妹さんにあたる方です。この先で二人の娘さんが相続する事も考えて、売却や賃貸なども視野に入れて、様々な形で‘この先の選択肢’を増やす事を考えました。例えば、娘さんそれぞれが敷地ごと建物を一棟ずつ相続した上で「それぞれに住む」「妹さんが一棟を売却する」「妹さんが一棟を賃貸にする」等々。

今回の記事につかった写真は、私が記録用に撮影したものです。
暖かい季節になったら、カメラマンさんに写真を撮影してもらう予定です。それらの写真を用いながら、あらためて詳細について書くことが出来ればと考えています。

福島