ちょっと専門的な話です。
この写真は、K邸リフォームの寄棟(よせむね)屋根の小屋組みです。築60年ほどの既存家屋の解体工事が終わった頃に、丸太梁の小口に錐(きり)が刺さっていたのが気になって撮ったものです。
友人の建築家にこの写真を見せたところ、錐よりも小屋組みに目が行ったようです。彼は「平面的に交差する小屋梁が‘渡り腮(わたりあご)’で組まれていないし‘雲筋違(くもすじかい)’も無い。この小屋組みをつくった昔の大工さんはどういうつもりだったのかな?」と言っていました。‘渡り腮’と ‘雲筋違’はスケッチに描いたようなものです。小屋組みの変形をおさえるために使われます。
「元の小屋組みは、地震や風などの‘水平荷重’に対して弱いんじゃないか?」と彼は言っているのだろうと思ったので、「‘鉛直荷重’(屋根や雪の重さ)を支える事にばかり気を使うような仕事は、昔の市井の大工さんには珍しくないんじゃないかと思っている。昔の小屋組みのけっこう多くは‘水平荷重’に対して弱いと思う。」といった旨の返事をしました。
私は「建築家や大工さんの多くが、小屋組みに‘水平荷重’を負担させる事を論理的に強く意識するようになったのは最近の話なんじゃないか。」と思っています。それ以前から‘渡り腮’や‘かぶと蟻がけ’などの仕口を駆使しながら‘雲筋違’や‘火打ち梁’などを入れて小屋組みを作るのは、それらの部材にのみ‘水平荷重’を負担させる事を考えていたわけではなく、そういった部材と仕上げ材も含めた他の部材で‘全体的になんとなく小屋組みの変形をおさえる’ようにして、小屋組み全体でなんとなく‘水平荷重’を負担する事を期待していたからなんだろうと思っています。なんとなく、です。なんとなくというのは、客観性がある方法論ではないという程度の意味です。その昔にK邸を作った大工さんは、‘渡り腮’も‘雲筋違’も無しでなんとなく小屋組みの変形をおさえられると、なんとなく考えてたんじゃないかと想像したわけです。友人が感じたように‘水平荷重’に対する意識があまりない大工さんだったんだろうなと思います。
K邸の小屋組みについては、改修前よりもしっかりと‘水平荷重’を受けられるような対応をしました。屋根面は下地合板でしっかりと固めて、交差する小屋梁は金物で緊結して、小屋束を補強した上で小屋束間に耐力壁と同じ仕様で筋違を入れました。
今の新築の家ではプレカット材と厚い合板で構造体を作るので、リフォーム以外ではなかなかこんな小屋組みの作り方をする機会も無いんだろうと思っています。古い木造の家のリフォームは、昔と今の‘技術’や‘考え方’を整理するという面もあり、なかなかに難しいものです。
福島
興味深い内容でした。しかも、わかり易い。勉強になります。
ありがとうございます。本当はもっとわかりやすく書きたいんですけどね。何かを伝えるというのは難しいもんですね。
福島
雲筋かい、空飛んでいてカッコイイですね。
勉強になります。
ありがとうございます。
清さん、コメントありがとうございます。なんで‘雲’なんでしょうね。調べてみます。モノの名前って、由来とか知ると「へぇ〜」って思いますよね。その時代の文化の一面が見えるようで。