月別アーカイブ: 2016年8月

江戸川区K邸-15(階段設置)

階段が設置されました。

側桁階段

できるだけ軽い印象のデザインにした側桁階段

床材に合わせて階段も杉板にしたので、足触りが柔らかくて気持ち良いです。

 

一階から二階に上がる階段は、吹抜けに設けています。階段の途中までは、蹴込み板無しの側桁階段です。段板と側桁は木製階段として使い勝手に支障が出ないぎりぎりまで部材寸法を小さくして、できるだけ軽い印象のデザインにしています。吹き抜けにさりげなくおかれたオブジェの様に見える事を意図した階段です。

024

吹抜につきだした側桁階段

002

吹抜から屋上まで

011

踊り場まわりのルーバー(写真ではボードが置かれてルーバーは隠れています)

屋上に出るための踊場のまわりにはルーバーを設けました。二階から上の階段にはルーバー越しの独特の光が入ります。空間が上昇する印象をこの光がつくりだす事を期待しています。

階段を設置してみると、吹抜けの空間に上へと広がる印象が加わったように感じます。

吹き抜けまわりには、階段の他にも大きな空間を彩るデザインがこれから増えていきます。より居心地の良い雰囲気になるように、現場で丁寧に詳細をつめていこうと思います。

025

吹抜に設置された一階から二階までの階段

福島

江戸川区K邸-14

外壁仕上げの杉板を張り終わりました。

大工さん1,5人で10日間かけて杉板を張りました。大工さん一人で張りはじめて、途中から大工さんがもう一人加わったので、1.5人で作業をしたとみています。

外壁の杉板を一階から張り始めたところ。杉板は一枚ずつ張ります。

外壁の杉板を一階から張り始めたところ。杉板は一枚ずつ張ります。

杉板を張る前に、‘外壁に出てくる設備の位置’と同時に‘杉板割付’を詳細に検討しました。割付というのは、‘仕上げ材同士の間隔’や‘どこを基準にして仕上げ材を張り始めるか’など、仕上げ材の配置のことを言います。杉板は夏の多湿な時期には膨らんで、冬の乾燥期には縮みます。上手く割付をしないと、杉板同士が干渉しあって割れたり、となりの杉板との隙間が大きくなってがたついたりします。そういったことも考慮に入れながら、割付をいろいろと検討しました。しかし、いざ杉板を張り始めてみると、想定していたよりも材の幅にばらつきがあり(杉板がそれぞれ微妙に寸法が違う)、丁寧に詳細に検討した割付通りには張れませんでした。こうなると、割付と同時に決めた‘設備位置’や‘板金位置’などに狂いが生じます。杉は自然素材なので工場製品のようにキッチリカッチリした寸法のものと同じようには扱えません。出来るかぎり周辺との取り合いに気を使いながら、全体のバランスを見て仕上ていくように、大工さんには多少の狂いは良しとして工事を進めてもらいました。大工さんが杉板一枚一枚の特徴を見ながら臨機応変に対応して、後で支障が出ないように杉板を張る事を優先します。自然素材であれば、すべての材の色が違うという事にもなります。K邸に使っている杉板は、保護用の塗装をしたものです。着色用の塗装ではないので、杉の自然な色むらや模様をそのまま反映した仕上げになります。1枚の材の中でも、上の部分と下の部分ではかなり色が違います。色のバランスについても、大工さんの感覚に頼りながら仕上ていく事になります。

杉板の幅や色などにはばらつきがあります。

杉板の幅や色などにはばらつきがあります。

自然素材ならではの雰囲気があります。

自然素材ならではの雰囲気があります。

 

杉板を張り終えてみると、予想通りに外壁がとても良い雰囲気になりました。‘軽さ’と‘渋さ’と‘端正さ’を感じさせる少し‘ロマンチック’な佇まいになると思います。足場を外して家の姿がはっきりと見えるようになれば、K邸のデザインが周辺の風景を良くするだろうと期待しています。

福島

江戸川区K邸-13(家具店巡り)

お施主様と一緒に、家具屋さん巡りに行ってきました。

椅子の座面高さを調整して、自分に合う高さを確認します。

椅子の座面高さを調整して、自分に合う高さを確認します。

K邸の工事は順調に進んでおり、現場を見てお施主様はより具体的に室内のイメージが沸いてきたようです。

造り付けのダイニングテーブルとパソコンデスクに合いそうな椅子と、リビングに置くソファをいくつかの家具屋さんで見てみました。

お施主様が気になっていた家具があるお店や、私達が内装の雰囲気から選んだおすすめの家具があるお店をまわりました。あらかじめ本やインターネットで見てみたい家具に目途を付けておいて、お店に行って実際に座ったり、大きさや手ざわり、色合いを確認したりしました。

板座のアームチェア

板座のアームチェア

リビングに置いた時のサイズ感について福島から説明中。

リビングに置いた時のサイズ感について福島から説明中。

実際に家具を見ると写真の印象とは違っていたり、写真では選ばなかった家具が良くみえたりします。椅子の場合は、座り心地の個人差もあるように思うので、やはり実物を体験することが大切です。また、その家具単体の見えかただけではなく、ほかの家具とのバランスや室内の色やプロポーションとのバランスもあるので、設計者が家具選びに同行してアドバイスすることもとても大切です。「お店では素敵なソファだと思ったけど、家に搬入したら大きすぎて失敗だった」というような話はよく聞きます。使い勝手や座り心地と見た目の好みや印象、バランス良く選ぶのは難しく、でもとてもわくわくして楽しいことです。

何軒も回って、素敵な椅子がいくつかありました。K邸のリビングに素敵な椅子が置かれたところを想像して、私達もとても楽しみな気持になりました。

遠山

 

建築家の独り言-2

「工作的な要素が感じられるデザインをしたい」と思う事があります。工作的といって私がイメージしているのは、工芸ほど高度な熟練技術を必要とはせず、手仕事によって単純な技術で作る事が出来る一品ものといったところです。思いはあるものの、実際にはそれほど工作的なデザインをすることが出来ずにいます。

「例えば家をつくるなどは、手仕事による一品生産だと言えるのではないか。」と考える人もいるでしょう。全く同じ家はそうそうないという点では、家は一品生産だという見方が出来るとは思います。ただ私には、家は手仕事でつくられているとはもう実感できなくなっています。家を既製品の組み合わせだけで完成させようと思ったら、それほど手仕事を入れずに進めることが出来るためかもしれません。基礎だけは手作業の割合を落とすことが難しいように思いますが、一昔前の仕事と比べて今の現場の仕事は、出来上がった商品を組み上げているように見えるかもしれません。工事が高効率化された住宅メーカーの家などは、プラモデルを組み上げるような印象に近いと言えるかもしれません。とは言っても、家はプラモデルよりはるかに大きなものなので、既製品を適切に選んだり、適切な位置に適切に組み上げるという作業も大変な作業ではあります。昔に比べて熟練度や作業量を求められないとはいえ、どこをとっても組み上げるのは人なので、職人さんたちに体力や勤勉さや智恵などは必要です。

私の仕事の話に戻ると、既製品の組み合わせだけで家をつくっているわけではありません。しかし、現場監理をしていると、家づくりにかかわるどの職種にも既製品を組み合わせるという感覚が入り込んでいることを実感します。そういったところが、工作的なデザインを困難にしているように思う事があります。

例えば、現場で障子の打合せをしているときに、建具屋さんに「障子の組子の見付は7.5mmしか出来ない。」と言われた事があります。単に組子を加工したらよいだけの話なので、見付はどうとでもなるはずです。ましてや組子の割付が大きい場合などは、見付寸法が大きい方が安定します。本当は出来ないのではなくて「いつも使う流通している加工済み既製品組子の見付が7.5mmだ。」という話です。でも、きっと建具屋さんの感覚はすでに「出来ない」となっているのだろうと思います。

他にも、例えば板金屋さんに「庇の唐草の出は20mmで下がりは30mmしか出来ない。」と言われたことがあります。これも本当は出来ないのではなくて「いつも使う流通している加工済み既製品がその寸法だ。」という話です。でも、やはり板金屋さんの感覚ではすでに「出来ない」となっているのだろうと思います。

こういった話をしてきた建具屋さんも板金屋さんも、とてもまじめに仕事に取り組んでいます。仕事ぶりも丁寧です。その彼らでも既製品を取り入れずに自分たちの仕事を全うするのが一般的ではなくなってきているという事かもしれません。このような状況になったのは「常に同じ質を要求される。」「クレームが無いように質を担保する。」といった事情があるからかもしれませんし、「もう自力できれいに加工するには技術力が不足している。」「人件費を考えるとばかばかしくてやれない。」という事なのかもしれません。

多くの職種で似たような話があります。現場で大工さんがノミもカンナも使わなくなって久しく、ゲンノウもノコギリもめったに使わないように思います(電動ノコギリや電動カンナは使います)。使う必要がなければ、技術力も身につかないし腕は落ちる一方だというのは想像に難くありません。もちろんきちんと自前でカンナをつくって現場にのぞむような職人さんもいますが、めったにお目にかかる機会はありません。そういう昔ながらの職人さんの人件費は割高になります。技術に見合った人件費として当然の帰結かと思います。こうなると、工作的なデザインのものをつくるために昔ながらの技術を駆使できる職人さんに頼る限りは、一定額以上の工事費が必要になります。

単純なつくりであっても、工作的なものは割高となりがちです。私の事務所の仕事は、建築家としてはローコストなものが多く、コストコントロールはかなりシビアになります。割高な工作的なものよりも、安くあがる既製品を組み合わせる事を選ぶことが多いと言えます。

工作的なデザインを実現するために、昔ながらの技術を駆使できる職人さんに頼る他に方法は無いものか、ローコストな仕事の中でも工作的なデザインを実現できないものか、そういったことも四苦八苦しながら考え続けています。

二年ほど前に家具職人さんと話をしたときに「旅行で東南アジアに行くといつも思うんだけど、日用品にしろお土産にしろ、街中を歩くと結構大変な手加工しているのがすごく安く売っているんだよ。もう彼らの方が安いし早いし上等なんだろうなって思うよ。」と言われたことがあります。「職人さんにできる事はなにか?」といった見方をすると、状況は刻一刻と変わっているように感じます。いつだってそうかもしれませんが、「以前のやり方と同じ」では通じない事もあるのだろうと考えています。

今できる事をきちんと見極めながら、工作的な要素が感じられるデザインにも取り組んでいきたいと考えています。

福島