月別アーカイブ: 2022年5月

世田谷区K邸リフォーム-10(どのようにインテリアコーディネートをするのか ②)

ダイニングチェアについては、はじめから希望されているものがありました。デンマークの家具ブランドであるカール・ハンセン&サンから出ている椅子で、ハンスJ.ウェグナーがデザインをしたYチェアになります。座り心地が良く扱いも楽で、デンマークデザインの定番と言える椅子だと思います。
インテリアショップのhhstyleさんで、あらためて実際に座っていただきました。
ダイニングチェアの検討中に、お母様の体調が優れない時期がありました。その際に、心配された娘さんから「もっと軽い椅子のほうが良いのではないか」と相談を受ける事になります。Yチェアは程好い軽さで使いやすいのですが、他の定番と言える椅子の中には更に軽い椅子もあります。インテリアブランドのカッシーナ・イクスシーさんが扱っているものなので、ショールームで体験をして頂きました。
あれこれと検討を重ねた末に、当初から希望されていたYチェアを選ぶ事となりました。いろいろな姿勢で長時間くつろいで過ごせるように造られており、そういった使い方が反映された形はとても美しく魅力的です。
木種と塗装色と座面高さを決めて、hhstyleさんに手配をお願いしました。

ダイニングからのキッチンの眺め

ダイニングテーブルについては、天板を石にしたいという要望がありました。「水が沁みない素材で、硬くて平滑な一枚物が良い」との考えから、「石の天板が良いのではないか」という結論に至ったそうです。希望に沿えるものは既製品にはなかなかありません。アンティーク家具にいくつか見受けられたのですが、寸法や使い勝手などの条件に合いませんでした。製作する事も考えてはみましたが、検討を重ねて「性能と価格が共に現実的ではない」と判断をしました。そこで、素材を変えて条件を満たすものを探す事にします。ガラスや金属の天板の肌触りは、Kさん御家族の好みではないという事でした。考えた末に、インテリアブランドのカッシーナ・イクスシーさんから出ているダイニングテーブルのナインテーブルを選ぶ事となります。その天板の質感は独特で、アクリルウレタン樹脂とミネラル素材を混ぜ合わせたものを左官で仕上げています。シンプルで創造的なデザインの素敵なテーブルだと思います。

キッチンからのダイニングの眺め

福島

世田谷区K邸リフォーム-9(どのようにインテリアコーディネートをするのか ①)

リフォーム案を検討し始めた頃から、インテリアコーディネートのイメージについて伺う事が多かったように思います。
インテリアデザインを進めながら、まずは要望に合った家具や照明器具を思い起こし、次に他の候補がないかとインターネットで調べます。いくつか選んで提案をして、打合せをしながら候補を絞ります。その後にショールームで現物を確認して、インテリアコーディネートを決める流れです。

リビングのレースカーテンと影

カーテンについては、スイスのファブリックブランドであるフィスバさんのものを希望されていました。インテリアデザインを検討する中で、漠然と青など寒色系のカーテンが良いのではないかという話しになります。ホームページで目星をつけてからショールームに行き、いろいろなカーテンを眺めてみました。フィスバさんは親身になって相談にのってくれるので、楽しく前向きに検討が進みます。まずはリビング・ダイニング用に、刺繡が綺麗な〈藍色〉のレースカーテンを選びました。それに合わせてドレープカーテンは光沢のある〈水色〉にしました。娘さんは、入り口近くに展示してあった〈焦げ茶色と白色のグラデーション〉が美しいレースカーテンに一目惚れをします。夫婦の寝室に合いそうだという話しになりました。ドレープカーテンはアクセントクロスの色として考えていた〈浅紫色〉に合わせました。
レースカーテンの検討では、柄の位置を見て生地の使う範囲を決めていきます。施工済みの窓の位置を娘さんご夫婦に現場で確認していただいた後に、改めてショールームを訪れて加工寸法を決めました。気になるラグやクッションなどもあり、その後も数回にわたってショールームを訪ねる事になります。

寝室のカーテン

ソファについては、まずカウチソファの使用を提案しました。リビングをくつろげる空間にしたいと考えていたので、寝そべりながら使えるカウチソファが適しているように思えました。
娘さんは、忙しい仕事の合間を縫って家具ブランドのAREAさんに足を運び、気に入ったものを見つけました。変形したL字型の革製カウチソファです。私からL字型のものをいくつか提案していたのですが、より個性的でくつろいだ印象の崩した形を選ばれました。
カウチソファはある意味で場所をとるのですが、変形したL字型となると更に置き方に制約が出てくる事が考えられます。後日、私もAREAさんの店舗に何度か同行させていただきました。改めて店舗で寸法や造りを確認して、カウチソファの配置を再検討しました。娘さんは、革を好きな色に染められるところにも魅力を感じていらっしゃったようです。ソファの色決めの時点で、すでにリビング・ダイニングは寒色を活かしたインテリアにする方針としています。娘さんはご自身で色見本帳を購入して、青系の中から色を吟味して選ばれました。

変形カウチソファとコーヒーテーブル

ソファが変形したL字型となると、それに合わせるコーヒーテーブルの形に制約が出てきます。円形や丸みを帯びた三角形といった天板を使う事で、ソファに対する納まりを良くするように考えました。いくつか提案をしたのですが、なかなかご納得いただけません。ある日、娘さんから「インテリアショップのhhstyleさんで、ノグチテーブルを購入しました」と連絡を頂きました。ノグチテーブルは、ヴィトラ社から出ているイサム・ノグチによるデザインのコーヒーテーブルです。曲線で構成された木の脚部に丸みを帯びた三角形のガラス天板を載せた構成になります。ガラス天板はKさん御家族の好みではないと思っていた等もあって、それまでの提案から外していました。娘さんは、店頭に飾ってあったノグチテーブルを見て、直ぐに購入を決めたそうです。きっとその美しい姿を見て、素材の好みを超えて惹かれたのではないかと想像しています。

福島

世田谷区K邸リフォーム-8(どのようなデザインにしたのか ③)

リビング・ダイニングと夫婦の寝室を除いた他の部屋においては、カーテンに〈光と色〉の効果をそれほど求めませんでした。もちろんカーテンの吟味はしたのですが、デザインの基調は他の素材に求めています。

玄関ホールのアクセントクロス

ご夫婦の寝室のように、アクセントクロスに〈光と色〉の効果を期待したところもあります。なかでも印象的なのは、リビング前室だと思います。色と柄に特長があるウィリアム・モリス定番の壁紙を、壁一面に使っています。華やかな雰囲気であり、アーチ形やモールディングと相まって、ヨーロッパ風のデザインを印象づける効果もあります。
これらのヨーロッパ風のデザインにも〈その空間らしさ〉が感じられるのではないかと思います。

リビングから見た前室のアクセントクロス

〈木の質感〉は、くつろいだ雰囲気が相応しい寝室のデザインに活かせるのではないかと考えました。寝室にはご夫婦用とお母様用とがあります。

夫婦の寝室の羽目板天井と格子

床はナラの無垢フローリングです。リビング・ダイニングの床に使ったウォールナットと比べると、少し気軽な印象だと思います。
天井はナラの羽目板として、色と質感を床にそろえました。羽目板を使うと、木の雰囲気をより感じられるようになると思います。
部屋を緩やかに仕切るツガの格子も設けました。木の印象を強くすると共に、空間に独特の奥行きを感じさせる効果もあると思います。

夫婦の寝室の入口

いずれの木もクリアオイル仕上げにしました。落ち着いた雰囲気のすごしやすい寝室に出来たように思います。

福島

世田谷区K邸リフォーム-7(どのようなデザインにしたのか ②)

インテリアデザインをするにあたっては、インテリアコーディネートを前提としています。とは言え、家具や照明器具などが変わっても〈その空間らしさ〉を感じられるようにしたいという想いもあります。長く我が家に愛着を持つ上で、それがとても大切なことに思えるからです。
あまり間取りを替えないリフォームであるがゆえに、空間構成や造形には〈既存の家らしさ〉が保たれます。新たなライフスタイルに相応しい〈その空間らしさ〉をデザインするには、造形などよりも〈光と色〉や〈木の質感〉を拠り所にするのが良いと考えました。

リビング・ダイニングのカーテン

カーテンへのこだわりをうかがってから、いつもよりカーテンの光をイメージするようになりました。ドレープカーテンが光を反射して色をつくる、レースカーテンが光を透かして色をつくる、天井から床までの開口部いっぱいに流れるように柔らかい布がさがっている、そんなイメージです。
いろいろな条件を踏まえて、こういったカーテンの〈光と色〉をリビング・ダイニングのデザインに活かす事としました。ショールームで実際にカーテンを見ていると、よりイメージが湧いてきます。最終的には〈水色〉のドレープカーテンと〈藍色〉のレースカーテンを選ぶことになりました。カーテンがつくる青みがかった光を美しく魅せるために、壁と天井は白い左官仕上げにしました。

夫婦の寝室のカーテン

ショールームには素敵なカーテンが並んでいます。娘さんが一目惚れしたレースカーテンを、ご夫婦の寝室に入れる事になりました。焦げ茶色と白色のグラデーションが美しいレースカーテンです。寝室に相応しく光を抑える質感となっています。ドレープカーテンはアクセントクロスの色として考えていた〈浅紫色〉に合わせました。アクセントクロスと共に沈んだ色の光を反射して、落ち着いた雰囲気をつくります。

福島

世田谷区K邸リフォーム-6(どのようなデザインにしたのか ①)

「どのような雰囲気の家にしたいですか?」と伺ったところ、「ヨーロッパ風のインテリアデザインが好み」「色がきれいな部屋にしたい」「硬い印象は避けたい」ということでした。印象的だったのはカーテンのお話です。質の良いカーテンにしたいと仰っていて、特にスイスのファブリックブランドであるフィスバさんのカーテンを希望されていました。デザインを検討しはじめると、ここに基調があると感じるようになります。
家具についてもイメージを持っていらっしゃいます。であれば、インテリアコーディネートを前提としてデザインすることが、好ましい雰囲気にする上では大切なはずです。そこで、私からインテリアコーディネートも提案させて頂きました。

夫婦の寝室のモールディング

ことさらヨーロッパ風にしたいとなれば、どこかにそれらしきモチーフが少しあると効果的に思えます。そこで、造り付け家具の扉にはモールディングを入れるようにしました。
やりすぎないように配慮が必要です。例えばリビング・ダイニングにモールディング入りの腰壁を設けると、よりヨーロッパ風が強調されるかもしれません。しかしながら、既存の空間には合わないと判断をしました。そもそも既存の空間の骨格が日本的であるためです。ヨーロッパの住宅と同じデザインをするのではなく、どこまでヨーロッパ風のテイストを入れるのかという感覚かもしれません。

アーチとアクセント壁

リビング・ダイニングと前室を仕切る壁の開口は、アーチ形にしました。これによって、さらにヨーロッパ風を楽しめるインテリアデザインになったと思います。どのようなアーチ形が良いかと考えたのですが、ここでも既存の空間の骨格が日本的であることが影響してきます。半円アーチ形にするとヨーロッパ風になるとは思うのですが、十分な開口をつくるには天井高さが足りません。そのため、低めの天井であっても大きめの開口をつくれる三心アーチ形としました。

福島

世田谷区K邸リフォーム-5(どのようにプランニングをするのか ②)

既存家屋からの大きな変更点は、一階の続き間を再現する事でした。竣工時には続き間であった部屋が、築10年頃のリフォームによって完全な二部屋に分けられていました。今回の築45年でのリフォームにあたり、この二部屋を広い一部屋として使いたいという要望もあり、続き間に戻す事になります。45年前の竣工時から見ると、続き間を仕切る襖(ふすま)を無くしてリビング・ダイニングとして使う感じです。襖の並びにある袖壁を構造的に残す必要があったため、続き間としての空間構成は保持される事となりました。

リビングの前室

結果として18帖(リビング10帖+ダイニング8帖)の一部屋になりますが、それでも例えばカウチソファを置くとなると、面積が足りているとは言い難い状況です。そこで隣室の空間をリビングに振り分ける事を考えました。隣室の収納とリビングの間の壁を取り払うことが出来れば、単純にリビングの面積を拡張できます。しかし、この壁には柱と筋交が入っている部分があり、そこは構造的に残す必要があります。そこで、筋交が無い部分だけを開口にして、隣室の収納をリビングの前室に用途替えする事としました。この際、収納の隣室側は壁にします。リビングの面積拡張ではなく、リビングをサポートする前室によって不足した面積を補う考え方です。具体的に、前室をリビングの出入り口と動線にしているので、その分だけ面積に余裕がうまれます。

寝室の前室とウォークインクローゼット

部屋の使い方の見直しで顕著なのは、部屋の一部を仕切って納戸やウォークインクローゼット等の収納にしたところです。収納については、具体的に所有している服や靴などの形と数を確認して計画を立てています。Kさんご家族は相当な荷物を整理されたのですが、それでも気持ち良く過ごすには収納量を増やす必要がありました。
単に収納量を増やすだけでは十分ではありません。便利な位置にあってこそ、収納を有効かつ快適に使うことが出来るものです。緻密な打ち合わせを重ねて、構造との兼ね合いを見ながら、既存の間取りは変えずに収納の壁や入口の位置を決めていきました。

福島

世田谷区K邸リフォーム-4(どのようにプランニングをするのか ①)

既存家屋の部屋は、ほとんど南向きのシンプルな配置で、数も大きさも充実していたと言えます。それゆえにKさんご家族は、間取りそのものに対する不満のようなものは、あまり感じていらっしゃらないようでした。
とは言え、より暮らしやすい家にしたいという話しにはなります。そこで、あまり間取りを変えずに部屋の使い方を見直す事にしました。

L型キッチン

高齢のお母様は、できるだけご自身で家事をしたいとお考えです。娘さんご夫婦は共働きであり、とてもお忙しくされています。こういった現状を鑑みると、より家事の負担を少なくしたいところです。
とは言え、長く習慣にしてきた家事の仕方を全く変えてしまうのは、特にお母様には負担になると考えられます。
お母様が長い時間を過ごしていたキッチンは、既存のレイアウトを踏襲した〈L型キッチン〉と〈ダイニングに向いた配膳カウンター〉としました。ただし、より使い勝手良くなるように各部の寸法や向きを変え、より収納量が多くなるように造作家具を増やすなどしています。

洗濯物干し場

洗濯の仕方については、娘さんご夫婦の習慣を基にしています。
家事負担の軽減については、生活家電に頼ることも提案しました。特に食器洗浄機と衣類乾燥機とロボット掃除機は、忙しい共働き夫婦の生活において大きな意味を持つと考えています。価値観や習慣に鑑みて、食器洗浄機とロボット掃除機を使う事になりました。

福島

世田谷区K邸リフォーム-3(どのような能力が作り手に求められるか)

リフォームと新築とでは、設計の進め方が異なります。そのため、建築家に求められる能力もまた異なるように思います。
リフォームでは、既存家屋がどのように作られたのかを把握する事が大切です。築年数が経っている場合は、古い建て方を理解している必要もあります。どのように作られたのかを知るためにも、そこにどのように手を加えることが出来るのかを判断するためにも、建築家には〈人の手で出来る作業に対する知識や感覚〉が求められます。そして、それをデザインとして昇華する能力もまた求められると思います。

ダイニングから見た配膳カウンター

工務店さんに求められる能力もまた同様です。とりわけ〈いつもとは違う臨機応変な対応〉が必要になりますが、これは住宅を施工する多くの工務店さんにとって難しいように思います。工事中には、殊に大工さんにかかる負担は大きく、いつもよりも〈知識〉〈経験〉〈感覚〉が求められます。出来る事なら、リフォームする既存家屋が建てられた頃に一線級であった大工さんに面倒を見てもらいたいところです。
K邸リフォームの場合は、馴染みの工務店さんにお世話になりました。大工さんはお二人で、共に45年前には活躍をしていた70歳ほどのベテランになります。どちらも期待にたがわぬ仕事ぶりでした。

福島