月別アーカイブ: 2019年11月

葛飾区T邸-8(どのようにデザインをしたのか_屋根について)

‘赤い瓦屋根’は、計画当初からのTさんのご要望です。瓦は‘和型桟瓦’になります。多くの人が思い浮かべるいわゆる普通の瓦です。
敷地が狭小地であるだけではなく、前面道路も狭いものです。立ち位置を選んで見上げても、なかなか屋根はきちんと見えません。思い入れのある屋根です。そんな敷地状況でも‘赤い瓦屋根’を楽しめるデザインを検討する事となります。

万十軒瓦

敷地の間口いっぱいに軒瓦が並んでいたら、屋根全体が見えていなくても、瓦屋根の雰囲気は出ます。狭小住宅の屋根面積は小さいものです。あまり屋根を入り組んだ形で小割にすると、瓦が目にうるさい印象になります。このように考えて「‘寄棟屋根’や‘方形屋根’のように家を覆うような屋根の形こそ相応しい」という結論に至りました。家の平面や敷地の形状を考慮に入れると‘寄棟屋根’を選ぶことになります。大棟の長さが短いため、方形に近い印象です。家に一体感を持たせる形でもあるので、外観がまとまるところも良いと考えました。
ただ軒瓦が敷地の間口いっぱいに見えるだけではまだ不十分です。そのデザインが大切になります。狭小地らしく、きちんと家の広さを得ようとすると軒の出もとれません。外壁の一番上を切り欠くように見切を入れて、軒の出がなくても屋根がきれいに見えるデザインにしています。軒瓦は瓦の印象を強く表現できる‘万十軒瓦’が相応しいと思いました。小さな‘寄棟屋根’では‘大棟’と‘隅棟’だけが飛び出しているように見えかねません。棟瓦は‘紐丸瓦一本伏せ’として、抑え目な棟のデザインにしました。

寄棟と下屋の表情

まだもの足りません。よりしっかりと‘赤い瓦屋根’の印象が残るデザインとして、‘下屋’を用いた屋根の表現が有効だと考えました。‘下屋’は人の目につきやすい高さとなるので、しっかりと‘赤い瓦屋根’を見せることが出来ます。もちろん、その見せ方への配慮が大切です。‘下屋’は‘けらば’の納まりで家の印象を決めてしまうところがあります。外壁から突き出た‘けらば’を‘招き’にすると、より屋根らしい雰囲気を持ってグッと存在感が増します。このような‘けらば’の納まりにする時には、軒先と壁が絡む部分の雨水処理が悩ましいところです。現場監督さんに相談をして、板金で雨水の流れを調整するようにしました。昔からある納まりですが、まだ検討の余地は残っているのかもしれません。大きな片持ちバルコニーと‘下屋’が絡むところは‘絵振板’風に納めました。‘招き’では‘拝み’にあたる部分を厚板でとめています。厚板は板金で覆って雨仕舞としました。

下屋の招きけらば

下屋の納まり_絵振板風

‘下屋’を玄関にかかるようにする事で、‘赤い瓦屋根’は日々の暮らしに馴染むようになります。軒下をくぐるたびに、軒裏や軒先はおのずと目に入ります。軒裏は垂木と野地板を見せた‘アラワシ’にして、軒先には‘赤い瓦屋根’と並んで見える‘鼻隠し’と‘広小舞’をまわしました。素朴でかっちりとした印象のデザインは、玄関まわりをきちんとした家に相応しい雰囲気にします。

下屋の軒裏と軒先

人の目に付くという事は、粗が目に付くという事でもあります。窯で焼く瓦は、もともと均一には出来ていません。ただ並べるだけではピタッと隙間なく重なる事などなく、近くで見ると屋根が少し波打っているように見えてしまうわけです。そこで‘下屋’の瓦を敷く時には、少し削るなどして瓦を合わています。

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葛飾区T邸-7(どのようなデザインにしたのか)

T邸のデザインには、Tさんの経験を拠り所としたところがあります。地域性もあってか、それらの経験にはある種の風情や懐かしさを感じます。そのデザインは、おのずと何処か日本的情緒をまとう事になりました。

‘赤い瓦屋根’に‘杉板鎧張りの外壁’と‘木製格子戸’が特徴の佇まいです。
Tさんが若い頃に住んだ家が‘赤い瓦屋根’で、とても好きだったそうです。計画当初からのご要望です。赤がほど良く印象に残るデザインとしました。
外壁については、私達が設計した‘江戸川区K邸’の杉板仕上げをTさんが気に入って下さったので、‘杉板鎧張りの外壁’を提案させていただきました。‘赤い瓦屋根’との相性も良いです。Tさんが幼い頃には、同様の杉の仕上げをよく目にしたのではないかと思います。「この地域に相応しい」との思いもありました。
‘木製格子戸’も、当初から強く要望されていました。ご実家に使われていたことがあるようです。これもまた、Tさんが幼い頃にはよく目にしたのではないかと思います。外観の要となっています。

敷目天井、唐松フローリング、漆喰壁

家の中に入ると、‘敷目天井’と‘唐松フローリング’が東西に延びる水平面を形成して、その二面に挟まれるように垂直面の‘漆喰壁’が立つ空間になります。ここに‘障子’と‘戸襖’と‘格子戸’を印象的に配置しています。Tさんがこれまで住んできた家にも‘敷目天井’はありました。これもやはりまた、Tさんが幼い頃にはよく目にしたのではないかと思います。小上がりになった‘和室’もあります。Tさんが子どもの頃に慣れ親しんだ三畳間です。伝統的な空間を意識しつつ、T邸に相応しい工夫を施しました。一階は自然素材でつくった優しい空間です。

アラワシ天井、唐松フローリング、壁紙

落ち着いた色と質感の‘壁紙’と白い無機質な‘引戸’

杉板の階段で二階に上がると、一階とは装いを変えた空間になります。杉の隅木と垂木を素材のまま見せて、上に向かって方向性を持った空間をつくります。この‘アラワシ天井’は、寄棟屋根の形に沿って家を覆います。床は一階と同じ‘唐松フローリング’にして、家全体のインテリアに統一感を持たせました。床と天井は木の素朴な表情で、そこに落ち着いた色と質感の‘壁紙’と白い無機質な‘引戸’を組み合わせて、しっとりとした趣のある空間にしました。

バルコニーのアラワシ天井

‘アラワシ天井’は、5畳ほどの大きさのバルコニーも覆います。家の内外にわたって傘がかかったようにも見えるデザインです。

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葛飾区 T 邸-6(どのようなプランニングをしたのか)

具体的なプランニングですが、最も特徴的なのは‘玄関’の在り方かもしれません。T邸の‘玄関’は、雰囲気や使い勝手を‘縁側’のようにしました。「リビングに‘縁側’を設けて、そこから掃出し窓をくぐって家に出入りする」イメージです。
Tさん‘たっての希望’である‘木製の引違い格子戸’を設けられる位置は、家の防火に関連する法(延焼の恐れのある部分)によって、道路側のほぼ中央に決まります。狭小地ながら駐車スペースの要望もあり、採光も道路側を当てにする事になります。これらの前提条件で、効率よくまとまった大きさのリビング・ダイニングをつくるには、‘玄関’を簡素化するのが有効だろうと考えました。この簡素化を‘縁側’のイメージで実現しようという着想です。‘玄関’とリビング・ダイニングの間は‘縁側’らしく‘障子’で仕切ります。
家への出入りを楽にするため、出来るだけ‘玄関’の床の段差を無くしました。車椅子でも楽に家へ出入りできるようになっています。

和室の戸襖を開けたところ

和室の戸襖を閉めたところ

狭くても良いので畳のある床が欲しいという御要望もあったので、小上がりのある3畳の和室を設けました。普段は三枚の戸襖を開けて(戸袋に引き込みます)、リビング・ダイニングと一体感を持った使い方をします。三枚の戸襖を閉める事で、寝室としても使える想定です。これにより一階だけで生活を完結させる事ができます。この和室は小さいがゆえに、畳に寝る良さとベッドに寝る良さを併せ持った使い勝手になると考えています。

カウンターと出窓越しに見る緑

キッチンは’背が高いカウンター’と’エアコンを仕込んだ垂れ壁’でリビング・ダイニングとの間を仕切っています。Tさんにとって快適なキッチンとリビング・ダイニングとの距離感を考えて、このような仕切り方(開き方)にしました。壁付けのシステムキッチンを設置して、まわりにTさんの暮らし方に合った出窓やカウンターや収納を設けて、高密度な作業スペースにしています。ダイニングテーブルからは、カウンターとキッチンの出窓越しに隣地の緑が見えるようにしました。

多目的に転用できる納戸(ロフト有)

二階には多目的に転用できる納戸を設けました。お母様の部屋と息子さんの部屋の間に配置して、双方から使える納戸にしています。廊下からも入れるようにしているので、個室としても成立します。納戸の中を家具で仕切るなどする事で、さまざまな使い方が想定出来ます。息子さんが結婚して家族が増える可能性を考慮しての事です。

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