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江戸川区K邸-24(杉板外壁の経年変化_3)

今回の確認で、思っていたよりも杉板の黒みが強いように感じました。敷地周辺には、大きな幹線道路が複数あり、幹線鉄道があり、広い河川敷をもつ大きな川もあります。そういった影響で砂塵等も含んだ大気汚染物質の量が多く、杉板に付着した量も多いのではないかと推測しました。腐朽菌の影響も見られず、大気汚染物質等の付着量が多いだけであれば、さほど耐久性に影響はないように思われます。

東側杉板外壁_2024年4月

東側杉板外壁の表面_2024年4月

もとより「杉板外壁はできるだけ経年変化に任せるようにしよう」と考えていました。とは言え、経年変化の進みが早いように感じたこともあり、「経年変化や黒みについての考え方の妥当性を確認したい」「現状を踏まえた上で、今後のメンテナンス方法を検討したい」と思いました。そこで、K邸で使用した杉材〈木もちe-外壁〉を扱っている〈小川耕太郎∞百合子社〉さんに相談をしました。小川さんに現状の写真を見て頂くと「黒みが強いと感じた」「黒みが強くても耐久性に問題は無いと考えている」との事でした。さらにメンテナンスについて伺ったところ、「黒みが気になるのであれば、外壁を洗浄する手もある」と、洗浄方法についてご教示いただきました。具体例として「(小川さんの)自宅が築10年の頃に、外壁の杉板を高圧洗浄機で洗った」というお話もしてくださり、その洗浄の様子を撮影した動画を見せていただきました。焦げ茶色の表面を洗浄すると、まだ赤みが残る杉の質感があらわれてきます。大気汚染物質がいかに杉板表面に黒みを付けているのかを実感できる動画でした。

インターホンまわりの外壁を水拭きしている_2024年4月

杉板外壁を洗浄するのかどうかも含めて、メンテナンスについてKさんご夫婦と相談をして決めることにしました。まずは現状に対するお考えを伺いました。ご夫婦ともに「杉板外壁の経年変化を楽しんでいる」「今の雰囲気もとても気に入っている」「経年変化の色ムラも味があって良いと思っている」とおっしゃっています。紫外線による杉板の変色だけではなく、大気汚染物質等が付着するのも味のうちだとお考えのようでした。それであれば、急いで外壁洗浄をする必要もないように思えます。しばらくは、この雰囲気を楽しんでいただくことになりました。

福島

江戸川区K邸-23(杉板外壁の経年変化_2)

今回お伺いした際に経年変化の進み具合が少し早いように感じたので、記録写真を元に外壁のこれまでの様子をまとめてみる事にしました。特に定点観測をしてきわけではないため、天候等の同一気象条件や撮影機材等の統一への配慮をした写真ではありません。それでも、記憶と印象をたどりながら、ある程度の情報を整理できると考えました。

① 杉板外壁の経年変化_2017年2月

① お引渡しから3カ月後(02)には、紫外線による変色で〈赤みが減り〉〈黄みが増した〉ように思います。
南側一階庇下の壁は、それほど変色していません。

② 杉板外壁の経年変化_2019年7月

② お引渡しから2年8カ月後(07)には、全体的に灰色を帯びています。まず紫外線の影響で溶出しやすくなった杉の色成分が雨水によって流れ出し、材が淡色化したと考えられます。その上に大気汚染物質等が付着したために、灰色を帯びたと思われます。
南側二階窓下の壁については、小庇と窓下の水切りが杉にあたる雨の量を抑えているために、他より色成分の溶出が遅くなっているのではないかと考えています。そのためにそれほど淡色化が進まない状態で大気汚染物質等が付着して、少し黒ずんだ茶色に見えるのだと思います。
南側一階庇下の壁については、紫外線による変色をしきらないうちに、大気汚染物質等が付着しているように思います。庇が深く雨がかりにもならないので、色成分も溶出せずにいるのだろうと考えています。焦げ茶色の壁といった印象です。

③ 杉板外壁の経年変化_2020年9月

③ 杉板外壁の経年変化_2022年3月

③ お引渡しから3年10カ月後(09)と5年4カ月後(2022.03)を見ると、大気汚染質等の付着が進んで黒みが増しているように思います。全体的に色ムラが目立つ印象です。
東側外壁の一階と二階の間に設けた水切りが杉にあたる雨の量を抑えているために、色成分の溶出が他よりも遅くなっているように思います。
南側一階庇下の壁については、それほど紫外線と雨による変色もないままに、大気汚染物質の付着が進んでいるように思われます。以前よりも濃い焦げ茶色になった印象です。

④ 杉板外壁の経年変化_2024年4月

④ お引き渡しから7年5カ月後(04)にあたる先月の時点では、全体としては色ムラがなくなってきて、大気汚染物質等の付着による黒色への変色が強くなっている印象です。
杉板表面の木目が浮き上がっていて、触ると浮造りのような凹凸を感じられます。
外壁面全てを目視で確認してみて、腐朽菌の影響は見受けられませんでした。届くところを手で押して状態を確かめると、しっかりとした感触できちんと乾燥しているのが分かります。
南側一階庇下の壁の一部をKさんが濡れた布で拭いたところ、付着していた大気汚染物質が落ちたらしく、黄みと少しの赤みが残る杉の質感があらわれました。

福島

江戸川区K邸-22(杉板外壁の経年変化_1)

江戸川区K邸のお引き渡しから、7年が経ちました。先日、杉板外壁の経年変化を確認するため、久しぶりにお邪魔させていただきました。杉板の様子は、時間の経過とともにかなり変わっていきます。時折状態を見ながら、メンテナンスについて考えています。

「木の外壁は腐りやすいのではないか?家の寿命が短くなるのではないか?」と質問をいただいた事があります。私は「木の乾燥状態を保つようにつくれば、他の外壁材と比べて特に家の寿命が短くなる事は無いと思います」とご説明差し上げました。木が腐るのは木材腐朽菌が繁殖するためです。乾燥状態を保つことで、この木材腐朽菌の繁殖を防げます。杉板外壁の表面は空気にさらされるので、杉板の裏面に通気層を設ければ、基本的には材を乾燥状態にすることができます。他にも「水分を吸いやすい木口に水が溜まらないようにする」「空気が淀むようなところをつくらない」「水跳ねがあるところには使わない」等にも配慮をして、杉板を傷めずに耐久性をあげるようにします。

杉板外壁の耐久性を上げるようにしても、木の経年変化は目に見えて分かるものです。日に日にその様子を変えていきます。それゆえに杉板外壁は、経年変化を「趣が増している」と感じる方にはお勧めですが、「劣化している」と感じる方には不向きな仕様のように思います。
Kさんは経年変化を楽しみながらお住まいのようです。

杉板外壁の経年変化_2017年

福島

葛飾区T邸-15(住み手の個性_暮らしの情景)

竣工後三年半が経ち、あらためて内観写真を撮影する機会がありました。
言うまでもない事かもしれませんが、竣工時と今とでは様子が違います。今の方が ‘住み手の個性’ をより強く感じられるようです。

三年半後のダイニングとキッチン

Tさんの家への思い入れは、とても強いものでした。その想いに応えるべく、Tさんの好みと暮らし方を注意深くデザインに反映しています。結果として、竣工時には ‘個性’ を感じられる家になっていたと思います。私が意図したこともあり、内部空間には粛然とした雰囲気が漂っていました。
Tさんが暮らし始めると、より色濃く ‘住み手の個性’ が反映されていった印象です。以前からお持ちの使い慣れたものが、家の中に並びます。一階を見渡してみると、家具とペンダントライトと時計によって、具体的な暮らし方が浮かび上がって見えてくるようです。さらに食器やミシンや小物入れなどの場所が定まって、こと細やかにTさんらしい ‘暮らしの情景’ が描かれたようにも感じます。そうして、粛然とした雰囲気を残しつつも、親しみやすさを併せ持つ空間になっていったように思います。
改めてT邸に向き合ってみて ‘住み手の個性’ がデザインを仕上げるように感じました。

三年半後のリビング

福島

葛飾区T邸-14(日本建築らしさ)

Tさんが住みはじめてしばらくすると、娘さんの幼馴染の女性が遊びにいらしたそうです。彼女は「お蕎麦屋さんでもできそうね」と仰っていたとの事です。私には‘家の日本建築らしさ’と‘店舗の和風インテリア’では、デザインが異なって見えます。なんというか、店舗のインテリアにはある種のケレン味が求められるように感じます。しかし彼女には、その違いはさほど気にならなかったのだろうと思います。かつてTさんの暮らしにあった‘日本建築らしさ’は、彼女にとって馴染みのないものだろうと私は考えました。Tさんにそうお伝えすると「あの娘は小さい時からマンション暮らしだからねえ」と仰っていました。日本建築らしさを感じた経験が店舗の中にしかないのであれば、彼女の感想はもっともなものです。

多くの人にとって、かつての日本的な建築は既に日常にはないようにも思えます。ある人の‘日本建築らしさ‘ とは、舞台セットのように虚構の世界に存在するのかもしれません。あるいは、他国の人が想像を膨らませたそれと変わりがないのかもしれません。そういった感覚によるデザインもあって良いと思います。しかし私には「きちんとした ‘日本建築らしさ’ があるのではないか」という想いもまたあるわけです。

つくり手としては、かつて日本にあった家をしっかりと学び、その有り方に意味を見出し、そこに新たな解釈を加えて、今に相応しいきちんとした ‘日本建築らしさ‘ をデザインできるようにも思います。なかなか難しい事ではあるのでしょうが、あまり厳密に首尾一貫した論理性のようなものを求めずに、感性を拠り所として含みを持たせるのであれば、有効な手立てと言えるのではないでしょうか。

それでは、住み手にとって ‘日本建築らしさ’ とはどのような意味を持ち得るのでしょうか。 ‘日本建築らしさ’ を求める人には何らかの経験があり、それに伴うイメージに心惹かれていると見る事は出来そうです。そうであれば、住み手にとって意味のあるデザインとするには、つまるところそのイメージの中に意義を見いだすのが道理に思います。住み手のイメージが `きちんとしたもの’ であれ `ケレン味のあるもの’ であれ、つくり手が考えるきちんとした‘日本建築らしさ’ を軸に据えて取り組む事で、住み手にとって ‘日本建築らしさ’ はより意味を持つように思えるのです。

福島

葛飾区T邸-13(どのようにデザインをしたのか_建具について)

‘ 格子戸 ’ ‘ 障子 ’ ‘ 戸襖 ’ といった建具が、この家の日本建築らしさの要となっているように思います。それらを伝統的なあり方そのままとするのではなく、今の暮らしを支えられる技術を織り込んだものにしようと考えました。あわせて ‘ 静かな空間 ’ に似つかわしいデザインと使い勝手にもしようと考えました。

格子戸

‘ 格子戸 ’ を、玄関の引違い戸として使っています。少し細めの格子を少し広めの間隔で組んで両面格子にしました。外から奥の障子と重ねて見ると、透明感がある軽い印象です。小振りな佇まいの家に似合うと思いました。リビング・ダイニングに採光をとる上でも、効果的なデザインだと考えています。技術的な工夫もしています。それなりの断熱性や気密性を持たせるために、ペアガラスを入れたり気密材を用いた納まりにしたりしています。重い建具となるため、高性能で高耐久の戸車とレールを注意深く選びました。滑らかな動きとするために、高い施工精度と緻密な施工管理も求められました。

猫間障子と戸襖

‘ 障子 ’ は、内部空間をぐっと日本建築らしくします。障子越しに広がるやわらかい光を、どのようにどこまで届かせるのかを加減して、粛然とした雰囲気をつくりだします。特に猫間障子は、そういった空間づくりに効果があると思います。
障子紙は、張替の手間を減らし耐久性をあげるために、和紙ではなく和紙付フィルムとしました。両面テープで貼るため、組子をあまり繊細なつくりにすると張替が難しくなります。とは言え、部材が大きい無骨なデザインは、さして似つかわしいとは思えません。お願いしている建具屋さんは見付7.5mmの組子を規格サイズとしているのですが、これであれば見た目にもバランス良く、コスト的にも無理がなく、張替にも対応できると考えました。敷居と鴨居は、オーソドックスな溝寸法を基本にデザインをして、すべりも触り心地も良い埋樫を入れました。

和室の戸襖

‘ 戸襖 ’ は、漆喰の内壁に近い印象にしようと考えました。合板フラッシュに和紙張り包みとして、シンプルな一枚板のようにデザインしています。
和室と個室の戸襖は、窓の遮光のために障子の部屋内側に建て込みました。Tさんからの「部屋に光が入らないように雨戸を設けたい」という御要望を受けて、工夫して戸襖を入れる方がより良いのではないかと思うに至ります。外部からも内部からも見栄えする上に、ハンドリングもメンテナンスも楽になります。敷居と鴨居は、障子に合わせた溝寸法としています。それなりに重いため、障子同様に埋樫を選び、さらにすべりを良くするために戸襖の摺り桟も共材としました。
リビング・ダイニングに面する片引き戸も戸襖としています。漆喰壁と一体の印象にするため、床から天井までのフルハイトにしました。

リビングダイニングの戸襖

福島

葛飾区 T 邸-6(どのようなプランニングをしたのか)

具体的なプランニングですが、最も特徴的なのは‘玄関’の在り方かもしれません。T邸の‘玄関’は、雰囲気や使い勝手を‘縁側’のようにしました。「リビングに‘縁側’を設けて、そこから掃出し窓をくぐって家に出入りする」イメージです。
Tさん‘たっての希望’である‘木製の引違い格子戸’を設けられる位置は、家の防火に関連する法(延焼の恐れのある部分)によって、道路側のほぼ中央に決まります。狭小地ながら駐車スペースの要望もあり、採光も道路側を当てにする事になります。これらの前提条件で、効率よくまとまった大きさのリビング・ダイニングをつくるには、‘玄関’を簡素化するのが有効だろうと考えました。この簡素化を‘縁側’のイメージで実現しようという着想です。‘玄関’とリビング・ダイニングの間は‘縁側’らしく‘障子’で仕切ります。
家への出入りを楽にするため、出来るだけ‘玄関’の床の段差を無くしました。車椅子でも楽に家へ出入りできるようになっています。

和室の戸襖を開けたところ

和室の戸襖を閉めたところ

狭くても良いので畳のある床が欲しいという御要望もあったので、小上がりのある3畳の和室を設けました。普段は三枚の戸襖を開けて(戸袋に引き込みます)、リビング・ダイニングと一体感を持った使い方をします。三枚の戸襖を閉める事で、寝室としても使える想定です。これにより一階だけで生活を完結させる事ができます。この和室は小さいがゆえに、畳に寝る良さとベッドに寝る良さを併せ持った使い勝手になると考えています。

カウンターと出窓越しに見る緑

キッチンは’背が高いカウンター’と’エアコンを仕込んだ垂れ壁’でリビング・ダイニングとの間を仕切っています。Tさんにとって快適なキッチンとリビング・ダイニングとの距離感を考えて、このような仕切り方(開き方)にしました。壁付けのシステムキッチンを設置して、まわりにTさんの暮らし方に合った出窓やカウンターや収納を設けて、高密度な作業スペースにしています。ダイニングテーブルからは、カウンターとキッチンの出窓越しに隣地の緑が見えるようにしました。

多目的に転用できる納戸(ロフト有)

二階には多目的に転用できる納戸を設けました。お母様の部屋と息子さんの部屋の間に配置して、双方から使える納戸にしています。廊下からも入れるようにしているので、個室としても成立します。納戸の中を家具で仕切るなどする事で、さまざまな使い方が想定出来ます。息子さんが結婚して家族が増える可能性を考慮しての事です。

福島

葛飾区 T 邸-5(どのようにプランニングをするのか)

T邸は都市部の狭小地に建つ狭小住宅になります。70代のお母様と40代の息子さんが暮らす家です。ゆくゆくは息子さんが家を相続する予定ですが、お母様が暮らしやすくする事を優先するように求められていたように思います。

私は「今はもちろん、この先も暮らしやすい家にする事が大切だ」と考えています。先の事を考えるときに、身体の変化への配慮も必要ではないかと思います。人はだんだんと‘疲れやすくなったり’‘重いものを持てなくなったり’‘手や足が以前より上がらなくなったり’するものです。そんなふうに変わっていく身体にたいして、それほど負担がかからない暮らし方を考えるように心がけています。‘暮らしに無駄な動きが生じないようにする’‘維持管理に手間がかからないようにする’‘一階だけで生活が完結できるようにする’‘床に段差を無くす’‘建具を引戸にする’といった方針でプランニングします。「効率の良い合理的な家をつくる」とも言えます。特殊な方法を採用しているわけではなく、丁寧にプランニングしているという事になるかと思います。

引違い玄関前

特に狭小住宅では「‘小さくて’効率の良い合理的な家をつくる」となります。小さい家の方が、無駄に動く必要もなく、掃除もメンテナンスの範囲も狭くなり、楽に暮らせるという事になりそうです。しかしただ単に小さい家にすると「なんだか息苦しくて快適ではない」となりかねないので、お施主さんの暮らし方を見ながら工夫をします。その際には「住む人の手が行き届く範囲を見極める」「住む人が楽しくできる家の事を把握する」といったところがとても大切になってきます。庭があると、花を植えて楽しめる人もいれば草むしりが嫌になる人もいます。家族の顔が見えるキッチンだと、リラックスして家事を出来る人もいれば生活にメリハリが無くなる人もいます。

狭小地の場合は、敷地の形状もプランニングにとても大きく影響してきます。敷地条件に合わせながら、Tさんの暮らし方に相応しい工夫をしていきます。

階段室と和室の引戸を閉じたところ(奥のカウンター前が階段室引戸)

福島

葛飾区 T 邸-4(どのように設計に取り組んだのか)

どのように設計に取り組んだのかを振り返ります。

Tさんは家への思い入れがとても強い方で、初めてお会いした時から何か訴えるような話しぶりだった事を覚えています。日々の生活で家に対して感じている事を、時に具体的に時に漠然と、熱心に話して下さいました。
打合せをする姿は‘よく目にする近頃の家に対しての違和感’や‘暮らしに向き合う姿勢’をご自身に問うているようでもありました。

一階のリビングダイニング

しばらくすると私は「Tさんが持つ家に対するイメージ’は、ご自身の体験からくるものだろう」と思うに至ります。
「朝起きたらまず窓を開ける」「決まった時間にぬか床を混ぜる」「季節に合った食事をする」「風呂上がりに体重を測る」そういった事を日々積み重ね、「家に帰ると‘赤い瓦屋根’が迎えてくれる」「‘格子戸の引違い戸’をあけて出入りする」「‘障子’で日射しや視線を調節する」「‘畳’に寝転がり休む」そういった事が日々を豊かにする。
それはTさんが「生まれ育った家」や「夫婦で暮らした家」や「子育てをしてきた家」で体験してきた‘暮らし方’や‘暮らしを支えるデザイン’なのだろうと考えるようになりました。
他にも「あまり明るい家は居心地がわるいのよね」「私が子供の頃は三畳の部屋を与えられていてね、サンジョッコって呼ばれたりしたのよ」「お日様が登る東の方角は、なんだかとても大切に感じるの」といった会話の中に、経験からくる思い入れを感じました。

二階の寝室

T邸の設計は、そういったバラバラに語られるイメージをまとめ上げるように進めたところがあります。まとめるためには軸となる何かが必要になります。それはある種の‘情緒’であったと言えるかもしれません。
江戸川が近く、朝晩と古寺の鐘の音が届く、そこはかとなく風情が残る地域に敷地はあります。この地域で生まれ育ったTさんの家には、それに相応しい佇まいがあると考えました。またそれを求められたようにも思います。私はTさんの経験の中から懐かしさを伴う‘情緒’を感じ取るようにして、この家を設計していたように思います。

福島

葛飾区T邸-1(地鎮祭)

先日、葛飾区T邸の地鎮祭を執り行いました。

T邸は、70代のお母さまと40代の息子さんの二人が暮らす住まいです。
はじめてお二人と家づくりの話をしてから一年半ほど経ちます。


葛飾区T邸地鎮祭

お二人ともとても丁寧に詳細にイメージや考えを詰められます。私も丁寧に詳細にイメージや考えを詰めて、一年半にわたって良いと思うものを提案してきました。その甲斐あって、充実した設計になったと感じています。

地鎮祭にはTさんの娘さんもいらっしゃいました。娘さんに「これで福島さんの仕事は完了ですか?」と聞かれたので「まだ仕事は三分の二くらい出来たという感じです。」とお答えしました。設計図を描き終わり確認申請など手続きを完了しても、私の葛飾区T邸の仕事はまだまだ続きます。私がきちんと現場監理をする事でより良い家になるので、竣工まで気を引き締めて取り組もうと思います。

福島