タグ別アーカイブ: 一人暮らしの一軒家

葛飾区K邸-7(住み手の個性)

中庭や玄関を挟んで鏡像のように建つ二棟は、ほぼ同じ平面を持ちます。その違いは、昼の空間に設けた造り付けの棚や机のあり方です。面積が限られているからこそ、こういったところに母娘それぞれの暮らし方を反映する事になります。広い部屋であれば家が完成した後に気に入った家具を好きなように置けますが、限られた面積の部屋でそうはいきません。造り付けのものを上手く配置しないと物の行き場がなくなりがちで、気持ちよく使える空間にはならないこともあります。結果として完成時には既に、使う人の個性がある程度は見受けられる部屋になっています。

娘の昼の空間_キッチン側

暮らしはじめて暫くすると、それぞれの棟の内部は母娘の個性がより強く表れた空間になっていきます。習慣や好みの違いによって、使い方や置かれるものに違いが出てくるからだろうと思います。趣味のものなどは、特に部屋の様子に影響を与えている印象です。物の置き方によって、その暮らしぶりが見えてくるようです。

母の昼の空間_ピクチャーウィンドウ側

娘の昼の空間_ピクチャーウィンドウ側

全く同じ平面と仕様のキッチンでは、特に母娘の違いを感じます。好みの違いはもちろんですが、年齢差による体力等の違いも影響しているように思います。年を重ねると、高い所には物を置かなくなったり、日常で使うものはすぐ手の届くところに集めたり、そういった傾向はあるようです。
高齢になると、身の回りの事を全て一人でするのは大変なことだと思います。「メンテナンスや掃除などの手入れが楽になるように」心がけて設計しました。とは言え、いつかは簡単な手入れも苦痛になる時期が訪れるのかもしれません。その時に何を割り切って暮らすのかなども、人によって違うように思います。掃除の回数を減らす、いっそのこと何も手入れをしない、使わないようにする等々。そういった割り切りに選択肢のある家にしたいと考えたのですが、難しいと実感するばかりです。せめて少しでも長く自立した生活を送れる家にしたいと、いつも通りの配慮をする事になります。それほど動かずに生活をまとめられるコンパクトな暮らし方、段差を無くした動線、寝室近くにトイレ・洗面・浴室を配置、スイッチやレバーハンドルは低めに設置、等々の一般的な配慮です。
できるだけ長く自分らしく暮らしていただきたいと思っています。

娘の寝室_トイレ・浴室・洗面に隣接

福島

葛飾区K邸-6(相続への配慮)

東京23区内に土地を持っていると、それなりに相続の事を考えざるを得ないと言えます。敷地の所有者はお母様であり、その土地の法定相続人は娘さん二人です。この敷地の形状や接道状況を見ると、土地を二分割してそれぞれに相続するのが分かりやすくて無駄も無さそうです。家を建て替えるにあたって、相続への配慮がある〈家の形〉や〈構造〉や〈平面計画〉としたら、さらに無駄もわずらわしさも減ります。結果として、土地も家も二分割しやすい〈二棟に分けた二世帯住宅〉は有効だと考えました。相続後に家に少し手を加えるだけで、娘さんがそのまま一棟に住み続ける事もできます。もう一人の娘さんは、残りの一棟に住む事も出来ますし、相続分の土地を建物ごと売却する事も出来ます。土地も家もそれぞれが別の所有者になったとしても、この家に気持ち良く住み続けるために、中庭のようなテラスとスロープはとても効果的だと思います。例えば、スロープとテラスと玄関を二つに区画する壁を立てる事で、二棟の家の独立性を高くする等が考えられます。一棟を残して、もう一棟は解体する事も考えられます。分かりやすく相続の選択肢を増やす‘家のつくり方’もあると考えています。

スロープを境に土地と建物を分割しやすい

テラスを境に土地と建物を分割しやすい

福島

葛飾区K邸-5(周辺環境との関係)

敷地の東側に畑があります。その畑の周辺には木も茂っており、少しのどかな光景です。南側と北側には二階建ての建物が近接していて、西側は狭い道路を挟んで大きな倉庫です。東側の光景は、都会では贅沢に思えます。それに、東側から畑越しに射す朝日は気持ちが良さそうです。そこで東側の景色を活かした計画としました。明るさと開放感が欲しい昼の空間を敷地東側に配置して、そこにフィックスの東向きピクチャーウィンドウを設けています。キッチンからも昼の空間越しにピクチャーウィンドウを楽しめます。

ピクチャーウィンドウ

キッチンからの眺め

いつか畑が宅地になってしまう可能性に対しても、配慮が必要だと考えました。東側隣地に建物が建ってしまうと、昼の空間への採光条件が悪くなり、ピクチャーウィンドウからの景色や開放感も楽しめなくなります。そうなると、他にもピクチャーウィンドウと同等の役割を果たす窓が欲しくなります。都市に建つ家で採光と換気を確保するには、中庭を設けるのが有効です。母娘それぞれの棟の間隔が適切であれば、中庭的な空間をつくることが出来ます。そこに向けて大きめの窓を設置したら、東側に隣家が建っても窮屈な暮らしにはなりません。という事で、天井まで届く掃出し窓と障子を入れました。中庭にはウッドデッキを設けて、より快適さと利便性が高い空間にしています。

ウッドデッキの中庭

周辺から家がどのように見えるのかという点にも配慮をしました。のどかな光景には、控えめな印象の佇まいが相応しいように思います。地域にも馴染む抑え気味のデザインとなるように、よく見かける切妻屋根のシンプルな外観としました。

福島

葛飾区K邸-4(一人暮らしと家の大きさ)

一人暮らしの一軒家を限られた面積で建てるにあたって、どんなプランなら快適に暮らせるのかと考えます。できるだけ部屋を広くみせるのであれば、浴室に洗面もトイレも入れたワンルームマンションのような平面もあり得るのかもしれません。しかし、母娘お二人には相応しくないように思われます。ワンルームマンションの様では暮らしにメリハリがなくなり、気持ち良く過ごせないと考えました。

対面式キッチン

キッチンや浴室・洗面室・トイレ等のサニタリーは、それぞれ独立して設けるほうが快適そうです。水回りにはそれなりに面積を割く事になります。他の部屋については、昼の空間と夜の空間に分けるようにしました。そうする事で暮らしにメリハリが生まれると考えたからです。

サニタリー

設計に着手した際に、母娘それぞれの一人暮らしのお住まいを拝見させていただきました。お二人とも無駄な物は持たず、うまく整理整頓をしながら暮らしていらした印象です。そこで収納の面積を必要最低限に設定して、出来るだけ部屋の面積を確保する事にしました。
年を重ねて体の自由が利かなくなる事もあるかもしれないと考えて、睡眠や着替えのための夜の空間である寝室の面積確保を優先しました。4.5帖ほどは必要です。

娘の寝室

残りの面積5.5帖で昼の空間を成立させる事となります。この面積でリビングダイニングと呼べる部屋をつくるのは無理があります。多目的に使う個室のイメージで、昼の空間を成立させようと考えました。それまでの御二人の暮らしぶりを鑑みて、それぞれの昼の空間のあり方を模索します。お母様の家については、大きなテーブルを部屋の中心に据えて、窓辺に書斎コーナーのあるレイアウトにしました。娘さんの家については、壁に沿ってモノを並べて部屋の中心を空けるようにして、対面式キッチンに向かってダイニングコーナーのあるレイアウトにしました。

母の昼の空間

娘の昼の空間

福島