中庭や玄関を挟んで鏡像のように建つ二棟は、ほぼ同じ平面を持ちます。その違いは、昼の空間に設けた造り付けの棚や机のあり方です。面積が限られているからこそ、こういったところに母娘それぞれの暮らし方を反映する事になります。広い部屋であれば家が完成した後に気に入った家具を好きなように置けますが、限られた面積の部屋でそうはいきません。造り付けのものを上手く配置しないと物の行き場がなくなりがちで、気持ちよく使える空間にはならないこともあります。結果として完成時には既に、使う人の個性がある程度は見受けられる部屋になっています。
暮らしはじめて暫くすると、それぞれの棟の内部は母娘の個性がより強く表れた空間になっていきます。習慣や好みの違いによって、使い方や置かれるものに違いが出てくるからだろうと思います。趣味のものなどは、特に部屋の様子に影響を与えている印象です。物の置き方によって、その暮らしぶりが見えてくるようです。
全く同じ平面と仕様のキッチンでは、特に母娘の違いを感じます。好みの違いはもちろんですが、年齢差による体力等の違いも影響しているように思います。年を重ねると、高い所には物を置かなくなったり、日常で使うものはすぐ手の届くところに集めたり、そういった傾向はあるようです。
高齢になると、身の回りの事を全て一人でするのは大変なことだと思います。「メンテナンスや掃除などの手入れが楽になるように」心がけて設計しました。とは言え、いつかは簡単な手入れも苦痛になる時期が訪れるのかもしれません。その時に何を割り切って暮らすのかなども、人によって違うように思います。掃除の回数を減らす、いっそのこと何も手入れをしない、使わないようにする等々。そういった割り切りに選択肢のある家にしたいと考えたのですが、難しいと実感するばかりです。せめて少しでも長く自立した生活を送れる家にしたいと、いつも通りの配慮をする事になります。それほど動かずに生活をまとめられるコンパクトな暮らし方、段差を無くした動線、寝室近くにトイレ・洗面・浴室を配置、スイッチやレバーハンドルは低めに設置、等々の一般的な配慮です。
できるだけ長く自分らしく暮らしていただきたいと思っています。
福島