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世田谷区K邸リフォーム-2(どのように設計に取り組んだのか)

高齢のお母様と娘さんご夫婦が共に暮らすのを機に、築45年のお母様の家を全面リフォームする事になりました。

ある意味で、とてもリフォームらしい設計になったと思います。
一般的に全面リフォームに求められるのは〈傷んだところを直す〉〈足りない性能を付加する〉〈全てのスペックを今よりも上げる〉〈変化したライフスタイルに合わせる〉〈好みのデザインにする〉といったところかと思います。

Kさんご家族には、既存家屋での暮らしのイメージがあります。リフォームに当たっての要望は、そのイメージのうちにある問題点を解決したいというものでした。はじめの頃の打合せでは、既存の家のこの部分をこうしたいという具体的なお話が多かったように思います。どちらかと言えば暮らし方を大きく変える事の無い、修繕に近いリフォームと言えます。建替えたかのような家にリフォームする場合と比べると、より既存の家を活かす方法です。
私には「高齢のお母様の暮らし方が大きく変わるのは避けたほうが良い」という思いもありました。そういった事情によって、あまり間取りを変えない設計方針となります。外観についても、修繕を施した上で色や形を整えるにとどめる事としました。

外観

打合せを重ねていくと、はじめは修繕に近かった要望に変化が出てきて、デザインとライフスタイルにもKさんご家族の想いが広がっていきます。素敵な家具やカーテンに囲まれて、雰囲気が良い洋風の空間でくつろいで過ごす、そういったイメージです。
間取りはあまり変えないデザインによって、ライフスタイルを大きく変える事となります。

福島

世田谷区K邸リフォーム-1(竣工写真)

世田谷区K邸リフォームの竣工写真が出来あがりました。
素敵な仕上がりになったと思います。飯貝カメラマンによる撮影です。

K邸リフォームは、インテリアデザインに重きを置いて計画したように思います。特にインテリアコーディネートを前提として、その雰囲気を創る意図がありました。

ダイニング

デザインするにあたっては〈光と色〉も意識しました。例えばリビング・ダイニングでは、 〈藍色〉のレースカーテン越しに広がる外光の色を、空間の基調としています。
夫婦の寝室では、木の素材感が印象的な空間に〈浅紫色〉のアクセント壁が沈んだ色の光を反射するようにしています。

夫婦の寝室

こういった色のある光を写真に反映する事は、とても難しいと思います。
〈目に見えている印象〉と〈写真の印象〉の間にズレが生じるのは、常について回る問題なのかもしれません。

そういった問題を乗り越えて、カメラマンは建築を写真にしていくように思います。

福島

葛飾区K邸-1(竣工)

葛飾区K邸が竣工しました。
狭小二世帯住宅です。敷地周辺には畑やお寺などの緑地が点在していて、のんびりとした雰囲気が少しだけ残っています。

周辺環境を活かそうとした点と、先々の介護や相続に配慮をした点が、この家のあり方を決めたのではないかと考えています。

正面

前面道路から敷地を見ると、切妻屋根の細長い平屋が二つ並んで建っています。控えめな印象の佇まいになったと思います。家づくりの打合せをはじめた頃に、お施主さんに慎ましやかな印象を受けました。敷地周辺を見まわして、主張が強めのデザインは似つかわしくないと感じもしました。そういった経緯もあり、この家には抑え気味のデザインが相応しいという考えに至ります。

それぞれの棟に、高齢のお母さんと娘さんの一人暮らし世帯が入ります。二棟の間に‘アプローチ’と‘二世帯共有玄関’と‘テラス’が挟まれるような配置です。

アプローチ

玄関

テラス

外部から内部に至るまで、バリアフリーとしています。玄関前に段差をつくらないために‘アプローチ’を全面的に‘スロープ’としたところは、この家の特徴の一つです。‘アプローチ’を登ると‘二世帯共有玄関’になります。家に入る前から、この玄関の‘ガラスの引き違い戸’越しに裏の緑地が見えます。隣接する緑地を風景として取り込んでいるところも、家の特徴の一つです。

キッチンやダイニングからは、窓越しにのんびりとした風景を眺められます。この窓は景色を絵のように切り取る‘ピクチャーウィンドウ’としてデザインしました。

ピクチャーウィンドウ

ダイニングの‘天井までとどく障子’を開けると、三方向を壁に囲まれながら一方向を緑地に開いた‘テラス’に出ます。テラスの床はウッドデッキです。椅子に腰かけて‘テラス’で過ごすのも気持ちが良いと思います。

ダイニング

この‘テラス’を挟んで、母娘はお互いの様子を知ることも出来ます。高齢者が住む二世帯住宅において、世帯同士がこういった距離感で暮らす良さもあると考えました。

テラスからの眺め

敷地を中央から二分するようにして、世帯ごとに棟を分けた計画です。このような構成とした背景の一つに、相続に対する配慮があります。お施主さんの一人であるお母さんには、二人の娘さんがいらっしゃいます。もう一人のお施主さんと、その妹さんにあたる方です。この先で二人の娘さんが相続する事も考えて、売却や賃貸なども視野に入れて、様々な形で‘この先の選択肢’を増やす事を考えました。例えば、娘さんそれぞれが敷地ごと建物を一棟ずつ相続した上で「それぞれに住む」「妹さんが一棟を売却する」「妹さんが一棟を賃貸にする」等々。

今回の記事につかった写真は、私が記録用に撮影したものです。
暖かい季節になったら、カメラマンさんに写真を撮影してもらう予定です。それらの写真を用いながら、あらためて詳細について書くことが出来ればと考えています。

福島

葛飾区T邸-12(どのようにデザインをしたのか_内部空間について-3)

言うまでもなく、Tさんが経験してきた‘暮らし’や‘空間’を単純に再現しても、今のTさんにとって良い家にはなりません。Tさんの経験を拠り所として、共感できるところを新たなデザインに昇華します。そうして‘今までよりも気持ちよく住める家’の実現を図るわけです。

Tさんにとって‘暗さ’は良い家の条件です。内部空間をデザインするにあたっては、どのような‘暗さ’かを想い描く事が大切になります。Tさんの語り口は「陰を感じる‘仄暗い’空間」といったものでした。とても感覚的ですが、そのように陰に重きを置くよりも「光を感じる‘薄明るい’空間」として‘暗さ’をデザインするほうが、より居心地が良くなるように私には思えました。やわらかい光がうっすらと内部空間を浮かび上がらせる様は‘静かな空間’に似つかわしくもあります。それは日本建築における光のあり方の一つであるようにも思います。私は、具体的なデザインを通して、Tさんにその旨をお伝えしました。

リビング・ダイニングの漆喰壁にひろがる光

リビング・ダイニングの漆喰壁に射す光

「印象的に光を感じられる内部空間とするには、自然光を反射する‘まとまった大きさの壁’があると良い」と思うことがあります。そして、その壁にどうやって自然光を反射させるのかによって、印象が決まるようにも思います。
全ての部屋において、その空間の広がりに見合った‘まとまった大きさの壁’を設けるように心がけました。そこに自然光を反射させています。特にリビング・ダイニングには、しっかりと‘まとまった大きさの壁’を設けました。この壁に自然光を入れる開口部として、玄関の‘障子’を当てています。‘障子’越しの自然光が漆喰壁に反射するさまは、どこか粛然とした様子です。

リビング・ダイニングに開放感や明るさが欲しい時には、この‘障子’を開けます。玄関の‘格子戸’と‘障子’との間は80cmほどになります。‘格子戸’から道路までは1mほどです。‘障子’を引ききって開け放つと、リビング・ダイニングが行き成り道路とつながる印象となるように思いました。道路に人通りが無いとは言え、これではあまり雰囲気が良くありません。この問題を解決するために‘障子’は‘猫間障子’にしました。‘猫間障子’の固定された上半分が、道路からの視線を遮ります。開閉する下半分は、外への視線と外からの光を調節します。

こういった視線や光の調節の仕方もまた、日本建築らしさのある一面のように思います。

福島

葛飾区T邸-11(どのようにデザインをしたのか_内部空間について-2)

リビング・ダイニングは‘敷目天井’と‘唐松フローリング’と‘漆喰壁’で構成された空間です。‘敷目天井’と‘唐松フローリング’は、空間に広がりを感じられるように、部屋の長手方向に沿って張りました。この張り方には、他にも意味を持たせています。天井と床の目地を、三畳間の間口に平行にしているのが要です。‘床挿し’をしないという考え方があります。「和室においては‘畳の縁’や‘天井の竿縁’などの直線に見える部位を、‘床の間’に向かって伸びるように(挿すように)つくらない」という決まり事のような考え方です。一階の空間構成では、少し前の日本でよく見かけた和室を意識しています。LDKはいわゆる和室ではないのですが、三畳間を‘床の間’に見立てて‘床挿し’をしないようにしたわけです。三畳間そのものも‘床の間’を意識してデザインしました。窓まわりは‘書院’のように、収納は‘床脇’のように、仕切りは‘床框’や‘落し掛け’のように、そういったデザインの積み重ねで、日本建築らしさを出したいとも考えました。

日本建築らしさ

床脇のようにデザイン

かつての日本建築において、今で言うデザインをするにあたり、さまざまに決まり事のようなものがあったと考えられます。それらが生まれる背景もあったはずです。そしてその決まり事に沿ったデザインは、時世に応じて意味を持っていたと思います。今日において、そのデザインと意味が有効か否かを問うのは難しいところです。既にそのデザインを目にする機会は少なくなり、ましてや生活の中でその意味を感じる事は無くなりつつあるように思います。そうなると、日本建築らしくデザインする事を躊躇してしまうわけです。では何故、T邸においては日本建築らしさを出そうとしたかと言えば「少なくともTさんの経験には、そのデザインが影響を及ぼしている」と感じたからです。そして「この家では、日本建築の考え方を活かした‘抑制の効いたデザイン’によって、Tさんが肌で感じる‘静かな空間’をつくることが出来る」と考えました。

福島

葛飾区T邸-10(どのようにデザインをしたのか_内部空間について-1)

‘静かな空間’にしたいと考えました。

初めてご要望を伺った頃から、Tさんは「明るい部屋は居心地が悪い。暗い部屋にしたい。」とよく仰っていました。それは単純に‘日射しや照明などの光の加減’として語られていたと思います。しかし、打合せを重ねていく中で、私はそこに別のニュアンスを感じるようになっていきました。「Tさんにとって‘暗さ’とは‘落ち着いた雰囲気’を象徴するものなのではないか」と…。そして「それは私が思う‘静かな空間’によって成り立つのではないか」とも考えるようになります。

このころ‘静かな空間’について思うところがあり、デザインの時機をうかがうようにしていました。住宅のデザインとは、それを望むお施主さんがいて、それに相応しい条件が整う事で、はじめて成立するように思います。T邸はその時機であると考えたわけです。

では私が思う‘静かな空間’とは何か? とても感覚的なものなのですが、‘抑制の効いたデザイン’にする事が大切になると思っています。奇をてらう事なく、お施主さんに馴染みのある材料や慣れた空間構成を活かすデザインです。

Tさんの経験を拠り所として、私が共感できるところを新たなデザインに昇華していきます。もちろん光に対する要望にも配慮をして、薄明るく内部空間が浮かび上がるようにもしています。これまでの暮らしぶりから、その空間は何処か日本的情緒をまとう事になります。

福島

葛飾区T邸-9(どのようにデザインをしたのか_外壁について)

乾いた素材感の杉板を活かした外壁デザインにしました。情緒もあり‘赤い瓦屋根’とも相性が良いと考えての事です。

「まとまった大きさの面(外壁)は、素材の印象を率直に伝える」ように思います。あちこちに窓を設けると、外壁がまとまった大きさの面には見えません。特に狭小住宅では、外壁の面積も小さくなるため、窓の数を必要最低限に抑えるようにします。外壁とデザインのバランスを取りながら、内部空間に効果的に光と風を届けるように、注意深く窓の位置と大きさを決めます。杉板の素直な表情を感じられる外壁になったと思います。

シンプルな形

このようにしてデザインした面(外壁)を組み合わせ、出来るだけ‘シンプルな形’に見える家とする事で、素材感がより際立つのではないかと期待もしました。プランニングをしている時に‘広いバルコニー’や‘屋根がかかる駐車スペース’は、家の形を複雑に見せるように思えました。そこで、これら半屋外空間を線によるデザインとする事で、出来るだけ家の形に影響を与えないようにしました。具体的には、広いバルコニーを焦げ茶に塗装した片持ち梁(線に見立てています)で宙に浮いたように支え、バルコニー下の駐車スペースの外周部には壁や柱を出さず、バルコニーの手摺は黒いスチールパイプ(線に見立てています)であまり形を主張しないデザインとして、透明感と抜け感のある空間にしました。ここに‘寄棟屋根’が影を落とすので、形を主張しない奥行感のある空間にもなっています。外から眺めてみると、家が‘シンプルな形’に感じられると思います。

形を主張しない半屋外空間

‘寄棟屋根’の‘軒先’と‘下屋’は水平を印象付けるデザインです。自ずと「家全体の印象も水平を基調にするのが相応しい」と思うに至ります。そこで「壁は水平を強調する‘鎧張り’が良い」となるわけです。建物の高さを低く抑えると、水平な印象をより効果的にデザインできるとも考えました。

‘素材の印象が伝わる’‘かわいらしい佇まい’の家になったと思います。

かわいらしい佇まい

葛飾区T邸-8(どのようにデザインをしたのか_屋根について)

‘赤い瓦屋根’は、計画当初からのTさんのご要望です。瓦は‘和型桟瓦’になります。多くの人が思い浮かべるいわゆる普通の瓦です。
敷地が狭小地であるだけではなく、前面道路も狭いものです。立ち位置を選んで見上げても、なかなか屋根はきちんと見えません。思い入れのある屋根です。そんな敷地状況でも‘赤い瓦屋根’を楽しめるデザインを検討する事となります。

万十軒瓦

敷地の間口いっぱいに軒瓦が並んでいたら、屋根全体が見えていなくても、瓦屋根の雰囲気は出ます。狭小住宅の屋根面積は小さいものです。あまり屋根を入り組んだ形で小割にすると、瓦が目にうるさい印象になります。このように考えて「‘寄棟屋根’や‘方形屋根’のように家を覆うような屋根の形こそ相応しい」という結論に至りました。家の平面や敷地の形状を考慮に入れると‘寄棟屋根’を選ぶことになります。大棟の長さが短いため、方形に近い印象です。家に一体感を持たせる形でもあるので、外観がまとまるところも良いと考えました。
ただ軒瓦が敷地の間口いっぱいに見えるだけではまだ不十分です。そのデザインが大切になります。狭小地らしく、きちんと家の広さを得ようとすると軒の出もとれません。外壁の一番上を切り欠くように見切を入れて、軒の出がなくても屋根がきれいに見えるデザインにしています。軒瓦は瓦の印象を強く表現できる‘万十軒瓦’が相応しいと思いました。小さな‘寄棟屋根’では‘大棟’と‘隅棟’だけが飛び出しているように見えかねません。棟瓦は‘紐丸瓦一本伏せ’として、抑え目な棟のデザインにしました。

寄棟と下屋の表情

まだもの足りません。よりしっかりと‘赤い瓦屋根’の印象が残るデザインとして、‘下屋’を用いた屋根の表現が有効だと考えました。‘下屋’は人の目につきやすい高さとなるので、しっかりと‘赤い瓦屋根’を見せることが出来ます。もちろん、その見せ方への配慮が大切です。‘下屋’は‘けらば’の納まりで家の印象を決めてしまうところがあります。外壁から突き出た‘けらば’を‘招き’にすると、より屋根らしい雰囲気を持ってグッと存在感が増します。このような‘けらば’の納まりにする時には、軒先と壁が絡む部分の雨水処理が悩ましいところです。現場監督さんに相談をして、板金で雨水の流れを調整するようにしました。昔からある納まりですが、まだ検討の余地は残っているのかもしれません。大きな片持ちバルコニーと‘下屋’が絡むところは‘絵振板’風に納めました。‘招き’では‘拝み’にあたる部分を厚板でとめています。厚板は板金で覆って雨仕舞としました。

下屋の招きけらば

下屋の納まり_絵振板風

‘下屋’を玄関にかかるようにする事で、‘赤い瓦屋根’は日々の暮らしに馴染むようになります。軒下をくぐるたびに、軒裏や軒先はおのずと目に入ります。軒裏は垂木と野地板を見せた‘アラワシ’にして、軒先には‘赤い瓦屋根’と並んで見える‘鼻隠し’と‘広小舞’をまわしました。素朴でかっちりとした印象のデザインは、玄関まわりをきちんとした家に相応しい雰囲気にします。

下屋の軒裏と軒先

人の目に付くという事は、粗が目に付くという事でもあります。窯で焼く瓦は、もともと均一には出来ていません。ただ並べるだけではピタッと隙間なく重なる事などなく、近くで見ると屋根が少し波打っているように見えてしまうわけです。そこで‘下屋’の瓦を敷く時には、少し削るなどして瓦を合わています。

福島

葛飾区T邸-7(どのようなデザインにしたのか)

T邸のデザインには、Tさんの経験を拠り所としたところがあります。地域性もあってか、それらの経験にはある種の風情や懐かしさを感じます。そのデザインは、おのずと何処か日本的情緒をまとう事になりました。

‘赤い瓦屋根’に‘杉板鎧張りの外壁’と‘木製格子戸’が特徴の佇まいです。
Tさんが若い頃に住んだ家が‘赤い瓦屋根’で、とても好きだったそうです。計画当初からのご要望です。赤がほど良く印象に残るデザインとしました。
外壁については、私達が設計した‘江戸川区K邸’の杉板仕上げをTさんが気に入って下さったので、‘杉板鎧張りの外壁’を提案させていただきました。‘赤い瓦屋根’との相性も良いです。Tさんが幼い頃には、同様の杉の仕上げをよく目にしたのではないかと思います。「この地域に相応しい」との思いもありました。
‘木製格子戸’も、当初から強く要望されていました。ご実家に使われていたことがあるようです。これもまた、Tさんが幼い頃にはよく目にしたのではないかと思います。外観の要となっています。

敷目天井、唐松フローリング、漆喰壁

家の中に入ると、‘敷目天井’と‘唐松フローリング’が東西に延びる水平面を形成して、その二面に挟まれるように垂直面の‘漆喰壁’が立つ空間になります。ここに‘障子’と‘戸襖’と‘格子戸’を印象的に配置しています。Tさんがこれまで住んできた家にも‘敷目天井’はありました。これもやはりまた、Tさんが幼い頃にはよく目にしたのではないかと思います。小上がりになった‘和室’もあります。Tさんが子どもの頃に慣れ親しんだ三畳間です。伝統的な空間を意識しつつ、T邸に相応しい工夫を施しました。一階は自然素材でつくった優しい空間です。

アラワシ天井、唐松フローリング、壁紙

落ち着いた色と質感の‘壁紙’と白い無機質な‘引戸’

杉板の階段で二階に上がると、一階とは装いを変えた空間になります。杉の隅木と垂木を素材のまま見せて、上に向かって方向性を持った空間をつくります。この‘アラワシ天井’は、寄棟屋根の形に沿って家を覆います。床は一階と同じ‘唐松フローリング’にして、家全体のインテリアに統一感を持たせました。床と天井は木の素朴な表情で、そこに落ち着いた色と質感の‘壁紙’と白い無機質な‘引戸’を組み合わせて、しっとりとした趣のある空間にしました。

バルコニーのアラワシ天井

‘アラワシ天井’は、5畳ほどの大きさのバルコニーも覆います。家の内外にわたって傘がかかったようにも見えるデザインです。

福島

葛飾区 T 邸-6(どのようなプランニングをしたのか)

具体的なプランニングですが、最も特徴的なのは‘玄関’の在り方かもしれません。T邸の‘玄関’は、雰囲気や使い勝手を‘縁側’のようにしました。「リビングに‘縁側’を設けて、そこから掃出し窓をくぐって家に出入りする」イメージです。
Tさん‘たっての希望’である‘木製の引違い格子戸’を設けられる位置は、家の防火に関連する法(延焼の恐れのある部分)によって、道路側のほぼ中央に決まります。狭小地ながら駐車スペースの要望もあり、採光も道路側を当てにする事になります。これらの前提条件で、効率よくまとまった大きさのリビング・ダイニングをつくるには、‘玄関’を簡素化するのが有効だろうと考えました。この簡素化を‘縁側’のイメージで実現しようという着想です。‘玄関’とリビング・ダイニングの間は‘縁側’らしく‘障子’で仕切ります。
家への出入りを楽にするため、出来るだけ‘玄関’の床の段差を無くしました。車椅子でも楽に家へ出入りできるようになっています。

和室の戸襖を開けたところ

和室の戸襖を閉めたところ

狭くても良いので畳のある床が欲しいという御要望もあったので、小上がりのある3畳の和室を設けました。普段は三枚の戸襖を開けて(戸袋に引き込みます)、リビング・ダイニングと一体感を持った使い方をします。三枚の戸襖を閉める事で、寝室としても使える想定です。これにより一階だけで生活を完結させる事ができます。この和室は小さいがゆえに、畳に寝る良さとベッドに寝る良さを併せ持った使い勝手になると考えています。

カウンターと出窓越しに見る緑

キッチンは’背が高いカウンター’と’エアコンを仕込んだ垂れ壁’でリビング・ダイニングとの間を仕切っています。Tさんにとって快適なキッチンとリビング・ダイニングとの距離感を考えて、このような仕切り方(開き方)にしました。壁付けのシステムキッチンを設置して、まわりにTさんの暮らし方に合った出窓やカウンターや収納を設けて、高密度な作業スペースにしています。ダイニングテーブルからは、カウンターとキッチンの出窓越しに隣地の緑が見えるようにしました。

多目的に転用できる納戸(ロフト有)

二階には多目的に転用できる納戸を設けました。お母様の部屋と息子さんの部屋の間に配置して、双方から使える納戸にしています。廊下からも入れるようにしているので、個室としても成立します。納戸の中を家具で仕切るなどする事で、さまざまな使い方が想定出来ます。息子さんが結婚して家族が増える可能性を考慮しての事です。

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